国内起債市場を斬る 決算月特別号:丸井グループの個人向け社債

9月末決算の発表時期で、前週に社債等の募集がなかったため、今年度上期の起債の中で異色を放っていた丸井グループによる個人向け社債について取上げてみたい。

丸井グループが個人向け社債を活用した社会貢献を打ち出したのは、3月の頭のことであった。以前から五常・アンド・カンパニー及びクラウドクレジットとの共創によるマイクロファイナンスの展開に取り組んでいたが、途上国の応援と資産形成を同時に実現できる「応援投資」という選択肢を提供するとして打ち出したのが、ソーシャルボンドとして認定を得た個人向け社債による資金調達であった。マイクロファイナンスの側では、途上国での個人事業主や中小零細事業者向けの小口金融サービスを提供するとし、一方で、その資金を個人向け社債で調達し、預金より高い利息収入を提供することで、若い世代を含めた日本の個人が「応援投資」を可能にするというスキームである。

具体的な個人向け社債としては、一般的な形態の個人投資家向け社債13億円(最低投資単位100万円で3年0.31%クーポン)を3月下旬に募集していたが、新規の取り組みとして募集されたのが、5月中旬に第1弾と9月中旬に第2弾の登場したエポスカード会員向けのセキュリティートークン債であった。第1弾及び第2弾とも、1年ものの社債でクーポンは1%とされており、1.3億円程度の募集を予定した。打ち切り発行を選択した結果、第1回債の募集額は1.2178億円であり、第2回債は1.1907億円であったことが発表されている。

エポスカード会員向けとされたのは、利息の7割(厳密には更に源泉徴収税額を控除した残)をエポスポイントで付与する方式を採用したためである。税の控除が必要なため全額をポイント付与とすることは出来ないし、幾ら給与のデジタル支払いが認められる方向であるものの、社債の利子をポイントで支払うことについては、金融商品としての商品性に疑義を抱かれる可能性がある。確かにエポスポイントは1ポイント=1円での支払利用が可能であり、換算レートが事業者によって変更されたこともないため安定性が高いと言って良いだろう。実際に、エポスカードの利用等で獲得したエポスポイントをネット上で手続きすることで1ポイント=1円としてプリペイドカードに移行し、実際の支払いに利用することが可能である。

利子の一部支払いに自社のポイントを活用するのが新規な取り組みの一つであることに加え、証券保管等振替機構を利用せずブロックチェーンを利用したセキュリティートークン債としたことで、発行体による自己募集を可能としたことも注目される。エポスカードを取得することで信用情報を把握している顧客向けという手法は合理的と言えよう。また、セキュリティートークン債であるために、最低単位を1万円としたことでマイクロファイナンスならぬマイクロインベストメントを実現可能としたことが、「応援投資」というコンセプトに沿ったものであった。なお、譲渡制限を付しているために、社債権者の変更は発行体による買入消却以外は実施できないこととされている。

丸井グループが今回採用した仕組みのすべてを他の発行体が真似できるものではないが、セキュリティートークン債のスキームについては、SBI証券や日本取引所グループによる起債が先行しており、今後の活用について注目したい。特に、投資最低単位の引き下げによるマイクロインベストメントの可能性については、個人投資家向け社債の裾野を拡大するものとなるのかもしれない。ただし、自己募集の出来る発行体は限られると思われる。