国内起債市場を斬る 起債評価:12/12~12/16

12月の起債市場は、前週の大花火大会の様相から一変、この週は残り火のような5日間だった。社債等で募集された金額は、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券を加えても、総計で1,200億円を少し越える程度にしかならない。地方公共団体金融機構のFLIP債の中で第717回の9年債が100億円とやや大きめな額であったことが奏効しているが、他の複数回号の募集案件も小粒感が否めない。

金額が大きく積み上らなかった一つの要因は、募集された劣後債が大きな金額を求める案件ではなかったことであろう。三井住友トラストホールディングスの劣後債は、10年債で期限前償還が5年経過時以降に可能となるものであり、機関投資家向けと個人投資家向けに100億円ずつが募集されている。ステップアップ後の変動利付期間のクーポンの算式が、個人投資家向けは5年国債利回り連動であるのに対し、機関投資家向けはTibor連動とされている違いはあるものの、ほぼ間違いなく期限前償還されるまでの5年間の固定利率クーポンは0.85%で揃えられている。

もう一つの東京ガスの劣後債は二本立てで、いずれも最終償還が60年と設定されており、第1回債は期限前償還が5年経過時点以降に可能で、第2回債は7年経過時点以降と設定が異なる。当然、第1回債の当初クーポンが0.735%に対し、第2回債は1.149%と大きく引き上げられている。募集額は第1回債が101億円で、第2回債が97億円と刻まれているが、二本でほぼ200億円となった。変動利付期間の基準利率は、1年国債利回りとされている。いずれもトランジションボンドと認定されており、低コスト水電解用セルスタック開発、メタンを合成するメタネーション試験、風力発電やバイオマス発電といったプロジェクトに資金を用いるとしている。こういった業種の発行体には、トランジションボンドが馴染むものと考えられる。

民間企業による唯一の普通社債の募集が、野村総合研究所による5年債300億円・7年債250億円・10年債100億円の計650億円の募集であった。資金使途はCP及び借入金の返済という定番のものであるが、SDGs債の募集で長々と資金使途などが記述された追補目論見書を見慣れてしまうと、こうした定番の返済目的の記述はあっさりと簡素なものに見えてしまうのだから、慣れというものは恐ろしいものである。

起債観測はチラホラ聞こえて来るが、カレンダーを見ると年末が押し迫っており、昨年もこの次のタイミングの起債案件は1月以降であった。2022年は、これで最後ということになるのだろう。