国内起債市場を斬る 起債評価:1/9~1/13

現在の起債市場でもっとも不確定なのが、プライシングの前提となる国債利回りの居所であろう。この週は月曜日が祝日だったこともあって、相変わらず金曜日に多くの起債が集中しており、その日に10年国債の利回りが日銀によるイールドカーブコントロール変動幅の上限である0.5%を越えて、0.545%など付けてしまうのであるから、社債等の条件決定が難しくなる。日銀が0.5%を上限として指値オペを投入し市場をコントロールすると言っているのに、それを上回る10年国債の売り物が出るということは、翌週に控えた金融政策決定会合において更なる金融緩和の見直しがあると市場が期待していることの表れであり、イールドカーブコントロールのロングエンドに対するコントロールが機能不全に陥っているということである。結果として、国債対比でプライシングされる高格付債のスプレッドは、拡大せざるを得なくなる。タイトなスプレッドでは、わずかの国債利回りの変動によって消失しかねないからである。

奇しくも、この週に条件決定された社債等は、クレディセゾンによる個人向けの5年債を除いて、基本的に国債対比でのプライシングが可能な公益セクターや公共債ばかりとなった。ただし、福島第一原発事故の後処理による電力セクター全般への影響を受けて、頑なにスプレッドプライシングを採用して来ていない東京電力パワーグリッドはいずれの年限も利回りの絶対水準でプライシングされている。

国債利回りの上昇とスプレッドの拡大は、出来上がりの社債等の利回り水準に大きな影響を与えている。まず、募集された10年債で比較してみると、地方公共団体金融機構が国債対比+30bpsで0.804%クーポン、JR東日本で同対比+40bpsの0.994%、日本政策投資銀行が同対比+32bpsで0.854%となっている。東京電力パワーグリッドの10年債は1.6%クーポンでプライシングされており、単純に引き算すると、国債対比+100bpsを越えるスプレッドとなっている。かつて市場実勢を無視したタイトなプライシングで市場の悪評を気にも留めなかった東京電力の遺伝子を継ぐ同社は、国債対比のスプレッドを表記するのは恥ずかしいのであろう。もっとも、格付けがR&IでA-格という水準は、国債対比でのスプレッドプライシングの対象銘柄にしては低いと言えるレベルであり、同社の募集する社債で国債対比のスプレッドプライシングを行うことは起債市場で歓迎されていないという見方も可能である。まあ、東京電力グループによる起債に関する過去の様々な行動や事件も含めて自業自得と言ってしまえば、それだけのことなのであるが。

同じように、国債対比のスプレッドとクーポンで5年債を比較してみると、JR東日本が国債対比+31bpsで0.687%クーポン、日本政策投資銀行が同対比+15bpsで0.527%クーポン、東日本高速道路が同対比+30bpsで0.677%クーポンである。結果として、東京電力パワーグリッドの1.19%クーポンは国債対比+81bps程度という水準になる。スプレッドの水準の大きさだけでなく、改めて利回り水準の高さに金利環境の変化を強く意識させられる市場の現状である。