国内起債市場を斬る 起債評価:4/17~4/21

基本的には、公的セクターと電力、金融といった発行体でほとんどの起債が説明される展開である。公的セクターとしては、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が第734回~第741回と本数を稼いでいる。募集された年限は5年~32年と分散しており総額は470億円となったが、本数も金額も前年度4月の同時期を下回っている。電力も発行体としては1社で、JERAが5年債及び7年債で計400億円を募集しただけに留まる。それでも、JERAに関しては当初の募集金額のイメージを大きく上回る需要が集まったようで、発行額が積み増されている。

結局のところ、金融セクターの起債が中心になった週だったと分析できるのかもしれない。募集の順序とは逆になるが、もっとも単純な社債は、金曜日に募集されたあおぞら銀行の3年債100億円である。同行が年に数回募集する普通社債であり、同残存年限の国債利回りが依然としてマイナス金利になっているため、スプレッドプライシングは採用されていない。同行による今回の社債の募集は、半年ぶりであった。

同じく金曜日に募集されたのが、SONPOホールディングスの5年物ソーシャルボンド700億円である。損保ジャパンを中心とする保険会社グループの持株会社による社債の募集であり、保険会社関連でのSDGs債の募集は珍しいと言って良いだろう。ソーシャルボンドということで、資金使途は介護や障がい関連のシステムでトップシェアを誇るNDソフトウェアの株式取得に際して借り入れたブリッジローンの返済に用いるとする。しかし、この資金使途の説明では拙い(つたない)であろう。そもそもお金に色はないから、短期借入金の借換えに社債で調達した資金を使おうが、別の運転資金を振り向けようが、外部からは区別がつかない。社債発行時のみではなく5年間の社債残存期間中すべてでソーシャルボンドとしての確認ができるような情報開示を徹底できるだろうか。取得したのが介護等関連のソフトウェア会社の株式だからといって、単純にソーシャルボンドと認めて良いものではない。第三者評価を与えた日本格付研究所と、その評価を鵜呑みにし投資表明を明らかにした約70の投資家は、将来に渡って発行体の継続開示に適正性があることを確認する義務を負ったと捉える。

木曜日に募集された三井住友フィナンサシャグループの永久劣後債は、いわゆるAT1債であった。3月に経営破綻したクレディスイスのAT1債は、株主の価値が毀損されないのに、劣後債保有者が損失を負担させられたことで、今回の募集に影響が出るかどうか注目されたものであった。実際には、日本のAT1債とスイスのAT1債とでは制度上の仕組みが異なり、クレディスイスが日本の法人であったならば、今回のように株主ではなく劣後債保有者に損失を負担させることは出来ないものと考えられる。したがって、劣後債やAT1債の仕組みを十分に理解せず、単純に利回りが高い債券としか考えていなかった投資家からの需要のみが悪影響を受けたのであろう。今回の三井住友フィナンシャルグループのAT1債が2本で計1,400億円の募集を成功させたことから、後続を予定する他の金融グループのAT1債はクレディスイス債から類推された懸念を払拭した状況で募集できるのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/10~4/14

起債市場は、巡航速度に乗ったと見て良い。確かに、クレディスイスのAT1債に生じた全損による波及や、先行きの景気後退を予想した低格付け銘柄の信用問題など懸念材料は少なくないが、日本の起債市場は基本的にハイイールド債が存在しない高格付債の市場である。余程の衝撃がない限り信用懸念が高まることもないし、リーマンショック時や新型コロナショック時の経験でもわかるように、公的セクターによる貸付を通じて資金繰り支援が行われることで、社債市場が機能不全に陥ったとしても、企業が求めるファイナンス機能を喪失することはないだろう。むしろ公募普通社債を募集できるような優良企業を含む様々な規模、業務内容の企業に対してまで、金融機関が貸付によって資金を供給することが期待できるため、信用不安が異常に高まることはないものと考えられる。

この週に条件決定された銘柄の多くは、募集タイミングも規模も違和感がないものであった。曜日の順で見て行くと、地方公共団体金融機構の10年債300億円及び20年債220億円は、毎月募集の10年債と、第1四半期は4月及び6月に募集予定と公表されていた20年債である。同機構は、4月下旬になるとFLIPに基づく債券募集を行うものと予測される。

次に、東京電力パワーグリッドは3年債300億円・5年債300億円・10年債600億円と合計して1,000億円を越える社債を募集している。エネルギー価格の上昇と小売価格への転嫁が十分に出来ていないため、電力会社に対する収益性の低下懸念は多少強まっていると言って良いだろう。現在でも、福島第一原子力発電所の事故以来続く電力会社の社債に対する警戒感は払拭されておらず、東京電力パワーグリッド債も5年債で0.98%クーポンと1%近い高利回りであり、10年債だと1.55%まで付されている。十分な投資妙味を感じる投資家もいることであろう。

クボタは5年債700億円と10年債500億円とで、同じく1,200億円を募集している。安定的な機械メーカーであり、5年債が0.479%と東京電力パワーグリッドの半分のクーポンで、10年債が0.95%と東京電力パワーグリッドの5年債とほぼ同じクーポンである。もう一つの大規模起債が日本たばこ産業によって行われている。7年債100億円や10年債300億円はともかく、日銀によるイールドカーブコントロールの修正が期待される中で、20年債200億円を募集したのは、財務省が約1/3の株式を保有する半官半民だからと言えなくもない。クーポンを見ると10年債が0.92%とクボタよりわずかに低い水準であるが、20年債は1.63%クーポンと高水準である。たばこ事業の先行きに対する不安感は小さくないだろうが、既に薬品や食品等多角化し海外展開も行っており、しかも、国の出資は法律によって1/3を超えることが義務とされているため、破綻を心配する必要はほぼない。破綻させると国の資産が毀損するため、公的支援や延命策等様々な取り組みが行われることだろう。しかも、法律によって、電力会社などと同様な一般担保付社債の形態が採用されている。R&IからAA格という高い格付けを取得しているのも、公的なサポートを期待できることが根底にある。起債頻度が多くないこともあって、よほどESGを厳格に適用し煙草を忌避する投資家でない限り、購入を検討する価値は残っていたのではなかろうか。

なお、これら以外にも、メニコンの10年債やGMOフィナンシャルホールディングスの3年債、DICの5年債などが募集されており、公的関連でも東日本高速道路や日本高速道路保有・債務返済機構などがソーシャルボンドを募集している。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/3~4/7

2023年度の起債市場が幕を開けた。実際に社債等の募集が行われたのは、7日の金曜日からである。10年利付国債の入札や地方債の条件決定を踏まえて、金曜日から募集開始というのは通常の月初と考えても違和感がない。年度の始まりというタイミングなので、まだ多くの銘柄が殺到するという状況にはなっていないが、様々な業種が社債を募集している。

年度や四半期の始まりに最初に動くのが電力会社というのは、一つの定番である。この週にまず動いたのは東北電力の10年債であった。電力会社に関しては、エネルギー価格の上昇に加えてカルテルの摘発といった不祥事も相次いでおり、必ずしもスプレッドのタイトニングは観測されていない。しかも、日銀総裁の交代を踏まえて10年国債利回りが再び上昇傾向となっていたことから、クーポンは1.14%と1%を大きく上回る水準となった。

期初の定番と言えば、電力の次はノンバンクである。7日に募集されたノンバンクの社債は、東京センチュリーの4年債300億円であった。国債対比+48bpsで0.55%クーポンという設定は、中期年限の国債利回りが依然として0.1%にも満たない水準であることを示しており、日銀によるイールドカーブコントロールの見直しが中期以下の年限には及ばないと市場で考えられていることの表れであると言っていいであろう。

期初における起債の定番となるもう一つの業態は、財投機関債である。電力、ノンバンクの次は、銀行か財投機関といったイメージが例年の事象であり、欧米の金融機関での経営問題が注視されている現状では、銀行社債よりも財投機関債が先に募集されるのも当然であろう。7日には、日本政策投資銀行が3年債・5年債・10年債各300億円を募集している。3年債のクーポンは0.1%と低く、5年債で0.349%となり、10年債でようやく0.785%となっている。10年債はスプレッドプライシングが採用されており、国債対比スプレッドは+32bpsで条件決定されている。国内外の格付会社から日本国債と同等の信用力評価を得ている発行体としては、やや厚めなスプレッドと考えて良いだろう。10年国債利回りのボラティリティの高さを織り込んだものと見られる。

この週のもう一つの起債は、ヒューリックによる3年債400億円の募集であった。不動産会社という不安要素と、みずほフィナンシャルグループと親密であるというポジティブな要素とが混在しているが、意外にも、メガバンクと親密な不動産関連会社は未だに統合が進んでおらず、ヒューリックは厳然と旧富士銀行系列であることが知られている。同じ金融グループの傘下に、旧第一勧業銀行系の中央日本土地建物や、旧日本興業銀行系の日鉄興和不動産などが並立しているのは、他のメガバンクも同様の状況にあり、日本の金融グループの統合は、平成元年から9年入行の銀行正社員の役職定年後就労先の確保という意味では、リース会社やその他金融同様、終身雇用を未だに踏襲しようとする日本的銀行経営戦略も理解できる。

国内起債市場を斬る 2023年度初め特別号:「ユニゾホールディングス」の場合

2022年の年度末で、社債募集がないこの週、前号から触れ始めたクレジット問題が国内においても強く意識される展開となった。一つはクレディスイスの債務処理にかかる「AT1債の減損」であったが、もう一つは「ユニゾホールディングの格下げ」である。いずれも(今のところは)国内クレジット市場全体に大きく影響を及ぼすような事象でもないが、前者は銀行等「金融関連の社債に対する注意」を喚起するものであり、後者は信用懸念の強い銘柄は容易に「回復することが出来ない」という現象である。第二次世界大戦後の日本において、公募普通社債がデフォルトした事例は必ずしも多くない。その中でも、一度デフォルトした公募普通社債発行企業が経営再建して再び公募普通社債の募集に戻って来れたのは、日本航空くらいなものであろう。また、公募普通社債を募集していた企業で格付けがBB格に落ちたものの、その後、再びAA格ゾーンにまで回復したのは、住友不動産くらいなものだろう。急速な信用悪化による破綻は少ないものの、一旦、信用不安を抱えると、なかなか復帰できないのが実情である。そもそも取引銀行との関係が良好で支援を受けられるならば、公募社債に頼らなくても、銀行融資を受けることで資金繰りを確保できるというのも、少し安直すぎるかも知れない。

期末も押し迫った3月28日にJCRは、ユニゾホールディングスの長期発行体格付けをB-格からCC格へと引き下げた。同時に、債券格付けをCCC格からC格へと引き下げている。引下げ前の水準でも既に投機的格付けとされるものであるが、C格という債券格付けは、もはやその下にはデフォルトしかないという状況である。今回の格下げの理由としては、現在のキャッシュフローと手元流動性では年間の有利子負債の返済額に届いていないことが指摘されている。既に保有物件はことごとく担保に供されており、資産売却による現金獲得も困難な状況にある。公募社債の償還予定としては、今年5月の第3回債100億円、11月の第5回債100億円などがあり、24年に入っても第8回債100億円と第11回債60億円が待っている(その他に、250億円が2026年から2027年に償還を迎える)。

日本の公募普通社債には社債間限定同順位特約が付されていることが多く(特約が一切付されていない社債すら存在するが)、そのため、融資に担保を付したとしても、無担保社債はそのまま放置されるという構造的劣後性を有している。結果として、既に残存する社債の単価は20~40円台という一般的に普通の債券価格では見ることが稀な水準にまで低下している。ユニゾホールディングスの信用力に対する懸念は以前から意識されていたため、今回の格下げが直接のトリガーになることはないと考えられるが、資金繰りに窮するタイミングは刻一刻と迫っているようである。社債管理者を設置されていないFA債の場合には、社債権者は発行体が破綻するまで具体的なアクションを取ることは困難であり、市場で売却することも容易ではないと考えられるため、ひたすら償還期日が無事に到来することを祈るしかない。

大幅にディスカウントされている単価を見て手を出せないかとヘッジファンドなどの投機家が考えるかもしれないが、キャッシュフローの先行きを考えると、購入(新規投資)する判断には至らないであろう。私的整理が行われ金融機関が債務減免で負担すると決断してくれることで社債権者の権利が守られる可能性がないとは言い切れないが、実際には、有担保ローンの残高が大きいため、法的整理によって担保権を行使された後に残る低い弁済率で社債権者は納得させられることとなる可能性が高い。ユニゾホールディングスの残存する社債の償還スケジュールを見ると、ここ2年以内に債務処理が行われてもおかしくないし、金融機関からの借入も多く残っていることを考えると、Xデーが来るのはそう遠くないことなのかもしれない。