国内起債市場を斬る GW明け特別号:金融不安は日本に上陸するのか

3月末決算の発表シーズンで、前週に見られた社債等の募集は、中日本高速道路と地方公共団体金融機構によるもののみであり、いずれも定例のものとみなして良い年限等の募集内容であった。そのため、今回はトピックとして、欧米で生じている「金融不安が日本に上陸するかどうか」を考察してみたい。

3月に米国のシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行とが経営破綻した。また、スイスに本拠を置くクレディスイスが、UBSによって救済合併されることとなった。その後しばらく事態は沈静化していたものの、5月に入って再び、米国の地銀であるファーストリパブリック銀行が経営破綻し、更なる地銀の破綻懸念が意識されている中で、メディアの一部などでは金融不安が日本へも伝播する可能性を報じ、これに対し一部の金融業界の経営陣、専門家は、『日本は大丈夫』としている。第二次世界大戦後の日本経済は「アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく」などと言われ、社会文化や企業カルチャーなども米国発のものが少し遅れて日本でも注目されることが珍しくない。国粋主義者からは敗戦国の崇米志向であると批判されるかもしれないが、日米が政治と経済の両面で深く繋がっている状況にあるため、米国発のものが日本に影響することは構造的な連結関係にあるためと考えて良いだろう。

しかし、金融不安が単純に日本へ上陸すると考えるのは早計かも知れない。文化などとは異なり、企業経営においては必ずしも米国と日本とは同質ではない。株主第一主義をやや強く意識し、四半期ごとの業績が強く強調する米国企業と、三方良しから周辺の利害関係者まで含めて広く考慮する日本企業の中長期経営とは、必ずしも重ならない。金融機関の構造を見ても、長く州際規制が課されて来た米国と日本とでは、メガバンクに関してはそれに近いものの様に見えるが、地方銀行は状況が大きく異なる。日本の地銀にも人口減少等の地域経済面からの経営問題を抱えるものは少なくないが、米国で経営破綻した三行のように、大口預金の流出や暗号資産関連企業への過剰融資といった問題は、今は存在しないし、金融引き締めに際してのALMの失敗といった現象も生じていない。振り返れば、1997年11月に日本がバブル経済の崩壊の影響で、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券、徳陽シティ銀行と毎週のように破綻が続いた時も、米国の金融機関には直接の影響は生じていなかった。2008年のリーマンショックでも、日本の金融機関には少なからずも影響はあったものの、破綻に至ったのは大和生命くらいで他にない。メディアによるセンセーショナルな金融不安を掻き立てる報道には、短絡的に飛びつくべきではないだろう。

それでも米国の大手地銀が複数破綻したことに関して、日本の金融機関について着目すべきことは少なくない。暗号資産関連等の経営基盤が脆弱な企業へ貸し込んでいないか、特定大口企業の預金比率や、一部携帯電話参入企業等への預貸率が高いなど、資金流出の懸念はないか、地域経済との関係は円満か、金利上昇に備えてALM管理は適正に行われているか、などの諸点である。植田日銀新総裁は、これまでの金融緩和政策を時間をかけて点検するとしており、市場の一部が期待していたような早急な金融緩和の見直しは行われないように見える。黒田前総裁とは異なり、サプライズ・インパクトを狙った金融政策の変更は好まれないと想定される。しかし、社会通念は、昔から首相による衆議院の解散と日銀総裁による金融政策の変更については、前言撤回等のサプライズも容認されるとしており、予断を持つべきではない。デリバティブの利用を含めた適切なALM管理による安定的な金融機関経営を意識してもらいたいものである。何といっても金融は経済における血流のようなものであり、金融不安が生じると、経済全般への悪影響が不可避となりかねないのは、誰もご異論がないところであろう。