国内起債市場を斬る 起債評価:5/8~5/19

GWと3月期決算の発表を越えて、起債市場は大きな盛り上がりに向けた溜めを作っているように見える。カレンダー要因に加えて、今後の起債増を招くであろう要因として、日本銀行新執行部による金融緩和継続の方向性表明がある。4月下旬に開かれた金融政策決定会合において新執行部による従来の政策に対する修正が行われるのではないかという期待感が強く見られ、債券市場においては市場機能の回復が期待され、株式市場においては緩和縮小によって株価の頭を抑えられる懸念が、為替市場においては政策修正を反映した円高期待が高まっていたのである。結果は見事な肩透かしとなり、時間をかけてこれまでの政策を点検・修正するという方針は、微修正が随時あるにとどまり、根本的な枠組みの変更等を先送りされることが確実と解されたのである。金融政策決定会合の結果を踏まえた状況変化を懸念して起債に向けた動きを鈍らせていた発行体は、一気に年度初めの起債に向けたエンジンを再加速させる方向に動いたのである。

5月15日にはじまった週も、前週末に募集された公共債が主体という状況からは大きな変化がない。公共債としては、12日に募集した中日本高速道路と地方公共団体金融機構に続いて、西日本高速道路が計2,200億円という大規模なソーシャルボンドを募集し、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が100億円のサステナビリティボンド、日本高速道路保有・債務返済機構が計400億円のソーシャルボンドを募集している。また、地方公共団体金融機構は、FLIPに基づく債券を11年から31年という超長期年限ばかりで7本計210億円募集している。

公共債に続いたのが電力債である。北陸電力が10年債50億円を募集したのを皮切りに、東北電力が22年債と半端な年限で200億円、北海道電力が10年債300億円および20年債50億円を募集している。いずれも通常の電力債形式であって、ソーシャルボンドやトランジションボンドとはされていない。多くの公共債とは異なるスタンスであるように見える。

公共債と電力債以外で募集されたのは、サントリーホールディングスの5年債150億円および10年債350億円のみであったが、翌週以降の起債観測では様々な銘柄が上がっている。銀行等金融関連も少なくないし、ノンバンクによる募集も確実視されている。また、メーカーや運輸、不動産といった業種からも複数の名前が聞こえている。グリーンボンドやサステナビリティリンクボンドなどSDGs債を予定しているものも少なくなく、起債市場の本格的な稼働は様々なSDGs債が彩を添えることになりそうだ。金利の先高感が薄れたことで発行体は起債に向かい、投資家は躊躇しながらも年間の資金消化計画を考えなければならない状況である。引受証券会社としても実績を積み上げておきたい年度の立ち上がりであることから、まだ起債観測の見られていない銘柄も、これから多く募集されることが予想される。