国内起債市場を斬る 2016年度下半期期初特別号:「どう考える?」マイナス金利債と個人向け劣後債

今年度上期の起債市場は、良くも悪しくも日本銀行による「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の影響を受けた。短期年限の金利水準の低下は、高格付け事業債の利回り低下をもたらした。まず、事実上の最低クーポンとされる0.001%クーポンの銘柄が複数見られるようになり、また、政府保証債等ではオーバーパー発行によって応募者利回りが0%になるような起債も見られるようになっている。果たして、下期の起債市場ではマイナス利回りの新発事業債が見られるだろうか。現状では下期入りしてすぐに突入する兆候は無いが、もし日本銀行がマイナス金利を深堀した場合には、マイナス利回りの起債が見られるかもしれない。特に、高格付けの2年債や3年債で見られる可能性はある。

次に、超長期年限の起債が多く見られたのも目立っていた。中でも、鉄道や財投機関債といった安定的な銘柄以外に、不動産や商社、メーカー等で超長期の起債が見られたのである。投資家のスタイルにもよるが、償還まで持ちきるという方針の投資家にとっては、発行体の業種や財務状況、将来見通しによって、購入できる銘柄かどうかが左右される。企業の中期計画が3年や5年の単位で作成されていることを考えると、20年や30年と言った遠い未来の財務状況はオフィシャルな見込みが存在しない。そうなると、現状の信用力と、今後の個々企業もしくは業界の将来性を考慮して、償還までの信用力を推定するしかない。そのために、従来は電力や鉄道、公的セクターしか超長期債は購入できないとする投資家が一般的で、結果的に、そういった発行体しか超長期債を募集できなかったのである。ところが、足元の利回り低下によって、投資家は十分な信用力評価も行わずに、超長期債への投資を続けているのである。もしかしたら、かつての電力債のように、将来後悔するような事態が生じるかもしれない。

最後に、金融セクター以外の業態による超長期年限の劣後債が複数見られた。極端なものが、ソフトバンクグループによる4,000億円の個人投資家向け劣後債であろう。機関投資家向けは、わずかに710億円しか売れなかったのである。やはり信用力評価を行って判断を行った投資家が多く、発行体側が期待したとされる1,000億円規模の需要は集まらなかったのである。結局のところ、劣後債に対する正確な理解ができない個人がターゲットにされた可能性もあるが、25年の償還以前の時点での期限前償還が行なわれなかった場合にどうなるのか。M&Aを繰返すために通常の信用力分析が通用しない発行体であり、投資期間中の信用力の上下変動を覚悟しなければならないだろう。また、創業者への依存度が高いことから、将来の事業承継等に懸念なしとはならない。安易なハブリッド債の募集・投資は、発行体も投資家も不幸な結果となる可能性があることを念頭に置いておかねばならない。金利水準の低下に苦しむ投資家の需要が期待できることから、下期も、劣後債等の募集が見られるだろう。

1年前に退職金の大半を、「この中にファンドラップに手を出した奴がいる」のCMに呼ばれて証券会社に預けた元大手金融機関役員、この投資家のご相談を受けた。当然のことながら、運用開始から1年余りで10%以上の評価損が出ており、あるネット系証券から、運用資産全額の乗り換えを強く勧められ、気持ちが揺れていた次第だ。9月の金融政策決定会合でも、一段と金融緩和の推進が強調されたものの、海外からの投資規制が現存する国内市場においては、年金運用も正しい信用リスクを計るよりは、目先のソフトバンクの劣後債か、ノンバンク発行債の30年債に走らざるを得ないのが現状である。ネット証券の若い営業マンの饒舌なプレゼンテーションに、グラっとくるのも無理はないのである。

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