国内起債市場を斬る 秋季特別号:「社債取引情報」の公表にひと言

2015年11月から日本証券業協会は、社債の取引情報を公表している。対象は、取引情報が公表されることによって社債取引の流動性を損ねないようにという配慮から、複数の信用格付業者から格付けを取得しており、少なくとも1つがAA格以上の銘柄とされている。判断基準の格付けとしては、銘柄に対する格付けの他に、発行体に対する格付けもスキームとして同水準であると考えられるのであれば、援用することが可能であるとされている。また、取引金額が1億円を下回る取引が対象外とされているとともに、具体的な手口情報の開示ではないことから、取引額は5億円未満か以上かといった別での取引価格が公表されるだけで、具体的な取引金額は公表されていない。つまり、取引金額が10億円なのか100億円なのかは区別できないのである。また、売りか買いかも公表されていない。 日本証券業協会は、取引情報の公表以前に、まず、取引情報の収集を開始している。ルートとしては、証券保管振替機構の決済照合システムから送られるものと、それ以外の取引について各証券会社から個別に日本証券業協会へ報告が行われている。金融機関や証券会社、多くの機関投資家による取引の場合には、証券保管振替機構経由で取引情報が把握できるはずだが、それ以外の事業会社や財団等諸法人の取引等の場合には、直接報告が必要となっているものがある。多くの取引情報がほふりの決済照合システムで把握されているものの、証券会社が個別に報告する手間も相当程度要しているのが実態である。 同制度に基づく取引情報の報告が開始されて1年が経過し、少なくとも社債取引に悪影響を与えていることはなく、制度開始から1年が経過したこともあって、今後、更なる制度の拡充が期待されるところである。方向性としては、まず、公表対象の拡大であろうか。実際に、複数格付けの取得を要件としたことで、高格付けを取得していても、一社からしか取得していない社債が公表対象外となっており、複数格付け要件の撤廃が望まれる他、そもそもの対象をA格まで引下げることも考えられる。当初の社債市場の活性化に関する懇談会の報告書では、格付け基準としてA格以上と提言されていたのである。 更なる拡充の方向性としては、取引金額の具体化もしくは刻みの細分化や、売り買いの取引別、価格ではなく利回り(受け渡し日がT+3でない場合もあり得るため)といったものが望まれる。また、取引情報の公表が翌朝となっているのも、より迅速化することが考えられる。ただし、これらの項目に関しては、現在の情報収集体制では限界が存在するのも事実で、将来に向けてのシステム見直し、おそらくは取引直後にダイレクトで取引情報が日本証券業協会に集積されるような仕組みが必要になることだろう。

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