国内起債市場を斬る 年末特別号:2016年の起債市場を振り返る

2016年の起債市場を振り返って一言で言えば、「日銀に振り回された」となろう。1月下旬に公表されたマイナス金利付き量的・質的金融緩和によって、中期年限の起債の難易度が上昇し、一方で、超長期債の起債が増加している。超長期債の募集については、業務や収支の長期安定性から、鉄道や電力・ガスといった業種が主体であったが、昨今の金利低下から、投資家が年限を伸ばしてイールドを求めた結果、その他の業種による超長期債の募集が増加している。特に、事業特性から超長期間の経営安定性に懸念の残る総合商社や不動産、ノンバンクといった企業の超長期債が募集され、利回りの観点のみで飛び付く投資家の姿勢には、将来の危惧を禁じ得ない。

もっとも、ここまで金利水準が低下し、日銀が更に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入して、オーバーシュート型コミットメントを明言している以上、金利水準の大幅な上昇は容易には見通せない。更には、金利水準の低下が政府一般会計における国債費の増加を抑制していることを考えると、政府の立場からも金利上昇は容認できるものではない。景気回復による健全な金利上昇に伴う税収増加がない限り、単なる金利上昇は政府財政の悪化要素でしかないのである。つまり、金利はなかなか上がらないし、上げられないのである。ここ数年の間は、投資家としての運用担当者は、そのパフォーマンスにおいて責任を問われることはないのかも知れない。言いかえると、誰が運用しても大差ないとも言える。

もう一つの日銀による政策の弊害が、3年債の歪んだプライシングであろう。本来ならば、国債がマイナス利回りになった結果として中期の一般債のプライシングは困難となっているが、3年債だけは日本銀行による買入れの対象となることが期待される場合、利回りもスプレッドも意味のないような最低水準のクーポンで募集されたのである。本来ならば、投資対象にならないような低利回りでも、日銀オペによる売却益を得ることを前提にして、極端な場合、年金資金のような長期投資家までもが短期売買目的で投資を行い、人気を集めたのである。これは金融政策によって生じた市場の歪みであり、本来ならばディーリング取引をしないような投資家にも、短期売買を味合わせてしまっているのである。

こうした超長期や3年債の華々しい動き以外にも、ハイブリッド債やレアな発行体の起債も見られているが、基本は低金利環境下での投資家による需要超過構造は変わっておらず、必ずしも社債に十分な投資妙味が見られないという状況は、そのまま放置されてきた1年であった。2017年は、どのような起債市場になっているだろか。

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