国内起債市場を斬る 起債評価:5/29~6/2

この週も、金曜日に起債が集中する傾向が、続いている。前週末のトヨタ自動車のような1,000億円単位での債券募集はないが、この金曜日も2本立ての募集が、ジャックス、ホンダファイナンス、あおぞら銀行、デンソー、北海道電力、三井住友トラストホールディングス、東京ガスと数多く見られている。引受証券から見れば、プライシングの手間を回号ごとに要するために、金額の大きさとは別の負荷がかかることになる。もちろん、募集額が多ければ、それだけ投資家に売り込まなければならないプレッシャーに迫られる。

一つの発行体が年限を複数に分けることで、様々な投資家のニーズに対応することが可能になるので、それだけ金額の消化も容易になる可能性は高い。2本立ての起債こそ投資家のニーズを上手く捉えることができる可能性が高いとしても、3本立てになると特に間の年限が中途半端になって消化に苦戦することも少なくない。そういう意味で、4本立ての起債ともなると、ターゲットや狙いが不明瞭になりかねないのである。この週に4本立ての起債にトライしたのが、楽天である。

水曜日に楽天が募集したのは、3年債400億円・5年債300億円・7年債200億円・10年債100億円の計1,000億円である。前週のトヨタ自動車は7年債でなく20年債を選択して同額の計1,000億円を募集している。同じ年限のクーポンを比較してみると、3年債はトヨタ0.001%に対して楽天0.09%と90倍で、5年債はトヨタ0.03%に対して楽天0.22%と約7倍、10年債はトヨタ0.22%に対して楽天0.42%と1.9倍なのである。トヨタ自動車の5年債と楽天の5年債が同じクーポンなのである。その差の一つの要因である信用力は、トヨタ自動車がAA+(R&I)格に対し、楽天がA(JCR)格であるという実態が、このクーポン格差の全てを物語っている。格付会社が異なるものの、4ノッチの差は大きい。

しかし、実際の投資に際しては、果たして楽天が10年債の投資に値する発行体であるかどうかを吟味する必要があろう。楽天は、ネット通販の場を提供するだけでなく、銀行や保険、旅行等々様々なサービスを提供する企業である。総合サービス会社と考えて良いだろう。トヨタ自動車のようなメーカーとは異なる。したがって、向こう5年の売上や収益はもとより長期的な安定性に対しての懸念は否定できない。仏ネット通販会社、プライスミニスターや、カナダの電子書籍サービス会社Koboなど、海外でのM&Aを急激に進めた楽天には減損リスクが根強くあった。しかし、積極策の手を安易に緩めることも、またリスク要因となり得る。過去の失敗を経験として活かし、引き続き良質な案件については「M&Aによる拡大戦略」を継続することが不可欠であると考えられる。
様々なビジネスを展開しているために、ピンポイントでは見えないが、海外展開の失敗だけでなく、アマゾンによる攻勢など必ずしも順風満帆といった状況にはない。果たして今回の10年債が償還される頃に、楽天はどうなっているだろうか。それが見えない社債に安易な投資は禁物と考える投資家は、少なくないのであろう。

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