国内起債市場を斬る 起債評価:6/5~6/9

先週もお伝えしたように、複数年限を一度に募集する案件が近頃目立っている。二本や三本というのは以前からよく見かけられたものであるが、四本というのはあまり多くなかった。複数本数に分けるのは、複数年限に分けるのと同義であるが、その背景にあるのは、調達年限の分散という経済合理的な考えの他に、主幹事証券を分散する正当性があるかもしれない。発行体にとっては、株式上場の主幹事証券や取引先銀行の親密証券等取引関係の平等性をアピールしようとする姿勢を見せるのは、むしろ自然ともいえる。そうすると、主幹事証券、中でもトップレフトと呼ばれることのある事務幹事については、複数の証券会社に実績を付けるために本数を分け、結果として年限が分かれるいうわけだ。

先月の起債を振り返ってみても、社債の四本立て募集は、トヨタ自動車の3年債300億円・5年債300億円・10年債300億円・20年債100億円の計1,000億円と楽天の3年債400億円・5年債300億円・7年債200億円・10年債100億円の計1,000億円という二つしかない。いずれも1,000億円と巨額の募集になっている。それが、6月に入ってアサヒグループホールディングスの3年債1,000億円・5年債1,300億円・7年債200億円・10年債300億円の計2,800億円に加えて、NECが3年債250億円・5年債350億円・7年債250億円・10年債150億円の計1,000億円を募集している。

結局のところ、四本立ての起債を行うのは、決して100億円の回号が4本で計400億円といった募集ではなく、合計で1,000億円以上といった大規模な起債ばかりなのである。しかも、調達年限は、3年・5年・10年といったベンチマーク年限が中心になっている。年限ごとの募集金額を見ると、やや年限の短い方が大きくなるのは当然であろう。4本の平均を見ると、トヨタ自動車は7.4年、楽天は5.1年、アサヒグループホールディングスは4.96年、NECは5.75年であり、20円債を募集したトヨタ自動車のみ平均で7年を越えるが、他の3社は5年前後の平均年限になっている。

短い年限が多くなることから、結果として平均のクーポンも小さい。特に、3年債で日銀オペを意識した最低クーポン等の低水準に設定した場合には、1,000億円以上の起債でも平均クーポンは小さくなるのである。トヨタ自動車は0.14%、楽天は0.20%、アサヒグループホールディングスは0.16%、NECは0.28%と必ずしも平均年限とは大小の順序が一致しない。単体のクーポンと平均水準を比べると、トヨタ自動車は5年債と10年債の間であるが、楽天・アサヒグループホールディングス・NECの三社はいずれも5年債を少し下回る程度の水準になっている。低金利局面では、より長期の年限で発行したいはずであるが、単純に平均年限を見ても、平均クーポンの水準を見ても、概ね5年程度の水準であるところが面白い。

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