国内起債市場を斬る 下半期初特別号:解散総選挙と債券市場

安倍首相による衆議院の解散と総選挙の実施は、衆議院議員の任期が2018年12月までであったことを考えると、決して予期できないものではなかった。森友・加計問題で低下した内閣支持率も、内閣改造と北朝鮮による数度のミサイル発射や核実験で、踏み止まっていたのである。一方、野党の状況を見ると、第一党の民進党では代表選挙が行われたものの、前原元代表の就任という結果になり、新味はない。小池都知事のグループも都民ファーストを中心に都政を優先するため、国政に踏み出す余裕は少ないと考えられた。仮に、民進党を離脱した国会議員が加わったとしても、自公連立政権を脅かす規模にはならないと思われたのである。かつての維新ブームでも、大阪を中心とする近畿圏では現在に続く強い地盤を築き上げたものの、全国区の存在には程遠いものであった。都議選における自民惨敗は、都会人のメディアを使った陽動作戦に弱い部分を露呈したものの、ブームは所詮ブーム。都民ファーストも、東京都及びその周辺の地域政党に過ぎないと見られたのである。

安倍首相の率いる自由民主党の公約では、消費税率引上げによって得られる財源を教育や社会保障の全世代型への転換に用いるとしている。更には、プライマリー・バランスを2020年に黒字化する予定は、2020年代と先送りする方針も示されたのである。従来は社会保障の充実や財政再建に用いるとされていた。債券市場から見ると、財政プレミアムの拡大や格付会社による日本国債の格下げといった影響が懸念される内容であった。既に消費税率引上げが二度も凍結される中で、海外系の格付会社のみならず、国内系の格付会社も、日本国債の格付け方向をネガティブとしている。財政再建目標の先送りは、それが経済の成長を伴わないと考えられるならば、強い格下げ要因になるものと考えられる。

安倍政権が打ち出している方針の柱は、あくまでも消費税率の10%への引上げである。リーマンショック並みの経済危機とならない限り、引上げを延長することはないとしているが、前回の引上げ延期の際も同様の説明がされていたことは記憶に残っていよう。つまり、状況によっては、消費税率引上げの再々延期もあり得るということなのだろう。

欧州諸国のVAT(Value-added tax:付加価値税)に比べれば日本の消費税率はまだ低く、VATよりも抜け穴等課題は多いが、消費税率に引上げ幅の存在することが、他の国と比べて極めて劣位にある政府財政状況でも、更なる格下げにならない要因の一つである。しかし、8%の引上げによる消費への悪影響が今でも残っているように、消費税率を10%に上げたとしても、税収が増えないどころか景気への悪影響が大きく出る可能性すらある。与党が衆議院議員選挙に勝利したら、債券市場は財政悪化と景気悪化の綱引き晒(さら)されることとなるだろう。

一方、小池東京都知事の率いる希望の党は、候補者の全貌が公表されていないこともあるが、詳細な公約も発表されていない。しかし、報道ベースでは、消費税率の引上げ凍結が盛り込まれるようである。政権を獲得した場合に具体的な政策がどうなるかは現時点では予測できないものの、これまでの方針で行くと、消費税率引上げ凍結で経済的にはプラスとなる可能性が高い。しかし、消費税率引上げを延期するならば、財政再建に対する悲観的な見方が強まろう。結果として、経済的にも財政的にも金利は上昇方向になると考えられるが、果たしてそれがsustainableな状態だろうか。

総選挙の結果による債券市場への影響を予想するならば、基本的には国民の耳に優しい公約が各三極陣営から出されるため、金利上昇になる可能性が高くなる。一方で、日本経済だけでなく世界的なマネーフローを考えると、各陣営の公約とも中期的には無理があるように思える。果たして、選挙の枠組みはどうなるか。そして国民の判断がどう出るか。来週の公示と22日の投票結果を見るまでには、まだ様々な紆余曲折が予想されるのである。(2017年10月2日15時記)

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