国内起債市場を斬る 起債評価:11/6~11/10

起債市場の動きは、「細々」と表現するべきだろう。募集される案件は公的セクターが中心で、民間の起債と言えるのは、電力会社による起債ばかりである。しかし、その分、12月中旬までに残された年内の起債シーズンに向けてエネルギーを蓄えているようである。決して金利先高感はないが、起債観測の上がっている銘柄は少なくない。

電力会社で債券を募集したのは、北陸電力が個人投資家向け4年債及び15年債各100億円、電源開発が10年債300億円である。個人投資家向けを除いた2本の売行きは良くなかった模様である。北陸電力の15年債は国債対比+25bps、電源開発の10年債は同+35bpsというスプレッドで募集されている。いずれもスプレッドの水準はほぼ実勢に近いところに設定されたが、基準となる国債利回りの低下が強く作用したため、スプレッドプライシングによる出来上がりの利回りが、投資家にはあまり魅力的なものとはならなかったのである。特に電源開発の10年債は国債対比+35bpsと盛ったのに、クーポンは0.38%でしかない。超長期はともかく、10年国債の利回りの低下によって、これから出て来る10年債のプライシングは難しいものになりそうだ。

一方で、安易な超長期債の募集にも警鐘を発しておくべきだろう。かつて超長期債の発行が電力・ガスや鉄道会社によってほぼ独占されていたのは、これらの業態が規制業種であり、料金に対して公的関与があることなどから、過大な競争から免れるだけでなく、地域独占といった構造的安定性を有していたためである。しかし、近年の強力な金融緩和による金利低下から、投資家の利回りニーズと発行体の調達ニーズの合致する形で、メーカー、ノンバンク、商社、不動産等様々な業種による超長期債の募集が頻繁に見られる。だが、これらの業種に超長期年限の安定性を期待してよいのだろうか。所詮、格付会社の信用力評価の年限的範囲は、発行体の公表する中期計画の最大5年に加えて、業界分析等で10年程度である。つまり、超長期債の格付けは、足元はともかく、償還まで安定した水準であるとは限らないのである。まさに、隣の客を見ながらカードを引くブラックジャックかバカラのようなものかもしれない。

本来なら、投資家が自ら発行体の信用力分析を行って、適正な投資ホライズンの上限を考えるべきなのであるが、金融緩和による金利水準の低下と信用スプレッドの圧縮によって、十分な人的資源や投資体制を構築できていない投資家に、そこまでの自己責任を求めるのは難しい。現状の超長期債市場の活況は、利回りを求める投資家の表面的な仮需と発行体の資金調達安定化の上に成り立つ砂上の楼閣(さじょうのろうかく)なのである。安易な超長期債の募集や購入については、特に、今後の金利上昇可能性を感じていない投資家ならともかく、日銀による出口を見込む投資家が手を出すのは、自己矛盾の行為でしかない。

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