国内起債市場を斬る 新年特別号:2018年の起債市場に対する展望

今年の起債市場を展望すると、言うまでもなく厳然とした事実が立ちはだかる。一つには、社債を中心とする一般債のプライシングの基礎が「国債利回り+α」であるように、基準となる国債利回りの水準である。利回りは需要と供給による価格メカニズムで決定される物であるから、需要者である投資家と供給者である発行体の両者の状況が影響する。国債の発行体は、政府財務省であるから、来年度の国債発行計画を見ると、今年度の補正計画ベース対比では6兆円の減少である。実際に市中に流されるカレンダーベースの市中発行額で見ると、7.1兆円の減少となる。金額では、5年利付国債の2.4兆円減少が大きいものの、減少率では40年債の2割減、30年債の12.5%減が大きく影響するだろう。流動性供給入札が逆に15.6%増とされており、流動性供給入札の運営次第では、超長期ゾーンの水準が変わる可能性もある。

国債の需要者としては、発行量の4割以上を保有する日本銀行の買入れ動向に注目が集まる。既に株式市場もJ-REIT市場も、日本銀行の買入れ次第で市場が左右される状況になっており、国債市場も同様である。日本銀行は既に『年間で国債保有残高が80兆円増加するように市中から国債を購入する』という方針を反故にしており、現状では60兆円程度しか残高の増加しないペースになっている。したがって、方針変更を明示しない限り、買入れペースの更なる減少は難しいだろう。現在の日本銀行の金融緩和は、安定した2%の物価上昇が実現できるまで縮小するのが難しい。基本線としては、日銀による買入れが維持されると考えるならば、需要の変化は期待し難い。結果として、国債利回りは供給減少と需要増加の結果であるから、価格上昇つまり低下する方向となる。

日本銀行以外の国債投資家について影響は大きなものがないと考えられるが、消費税率引上げの見直し等から財政規律の緩みを懸念されて、国債に対する格付けを見直される場合には、様々な影響の発生が懸念される。国内資金で国債の9割が消化されているために、国債に対する直接の需要変化は見込まれないが、格付け低下による担保掛目の変化やシーリング効果による金融機関等の格付け低下で、直接間接の変化が発生する可能性がある。格付けの見直しは事前の予測が難しく、景気が良好な中では生じない可能性も高いが、リスク・シナリオとしての意識は頭の片隅に残しておきたい。

第二の要素は、一般債の利回りにおいて+αの部分であるスプレッドの見通しである。投資家の一般債購入ニーズは強い。特に、国債がマイナス利回りになっている年限では、プラス利回りを維持する一般債は、満期保有を前提とする投資家の購入対象であり続ける。そのため、スプレッドに対する需要は根強い。一方で、供給サイド、つまり企業等の資金調達ニーズはどうか。残念ながら、銀行の金余り感が強いだけでなく、企業自身が豊富なキャッシュを抱え込んでいる。そのため、積極的に債券を発行して資金調達を行おうとする発行体が多いとは思えない。また、日本銀行の金融緩和執政が変わらない限り、先行きの金利水準が上昇するとは思えないことから、企業等が金利先高感から資金調達を急ぐという状況も想定できない。結局のところ、スプレッドに関しても、引続き低水準であるとしか見通すことは出来ないのである。

結果として、一般債に対する投資妙味は決して高くなることはないだろう。状況に変化のない限り、淡々とした発行と消化が続くことになるだろう。もし市場に変化があるとするならば、景況感の改善による金利先高感よりも、日本銀行の緩和方針に関する変化が先に来るだろう。つまり、市中の環境変化より先に、日本銀行は動くだろう。日本銀行執行部の構成変化や方針変化によって、債券市場に影響がどう及ぶかに着目するのが、2018年の起債市場になるのではないか。年末に掲げた2018年の見通しを、ここで変更する必要性は考えられず、敢えて詳しく述べて、今年の起債市場に対する展望としたい。

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