国内起債市場を斬る 旧正月特別号:なぜ、日本ではハイイールド債が根付かない?

市場というものを作り出すことは、誰にとっても容易でない。基本的には需要と供給がバランスするのが市場である。発行量の4割以上を日本銀行が保有している国債などは、既に正常な市場機能を喪失していると考えて良いだろう。多数の市場参加者が存在することは、健全な市場であることの一つの条件であろう。歴史的には、官公庁や取引所が市場の創設を誘導したこともある。解説された市場が一旦は取引が成立して成功したかに見えたとしても、市場創設のご祝儀が途絶えると、休息に萎んでしまう。健全な市場であるためには、参入障壁がないか低いこと等様々条件あるが、本質的には取引ニーズの存在することがもっとも重要な要素である。

日本にハイイールド債市場が根付かない理由としては、幾つかの要因が考えられる。投資家のほとんどは、仮に利回りが高くても、ハイイールド債を購入しようとしない。それは、信用力対比のスプレッドが十分にないと考えられているだけでなく、ハイイールド債の保有コストが小さくないからである。金融庁の監督下にある投資家は、いわゆる投資適格に満たない社債を保有している場合には、その保有を正当化し非分類とするための自己査定手続きが必要になる。その手続きを行うための手間やコストに見合うスプレッドが必要になるため、ハイイールド債を購入するために必要なスプレッドは、信用力見合いを越えたものが必要になるのである。

しかし、こうした手間の議論は間接的な要因でしかない。根本的な要因は、ハイイールドに相当する信用力の企業に対しては、融資金融機関による融資が資金ニーズを満たしているからで、敢えて社債を発行するまでもないと考えられるのである。つまり、想定される発行体にハイイールド債を募集する必要性がないのである。つまり需要と供給が存在しなければ、市場は成り立たないのである。

仮に官公庁や取引所は旗を振っても、ハイイールド債市場は育たないだろう。それは、日本証券業協会が10年近く努力しても、ほとんど何らの変化が見られないことで容易に理解できよう。ただし、官公庁の旗の振り方によっては、市場の活性化に誘導する方策はある。すなわち、金融機関の低信用力企業に対する融資について、ハイイールド債同様のコストを必要とするような施策を行うとか、不十分なスプレッドの貸付に対してペナルティを課すとかである。つまり、企業も銀行もが融資に依存できないようにするのである。ところが、日本の低信用力企業に対する融資問題の背景には、更に、政府系金融機関による融資の存在がある。民間金融機関は率先して低利融資を実行しているのではなく、競争によってやむを得ず低利融資を強いられている可能性もある。

こうして考えると、日本にハイイールド債が根付かないのは、単に特定の誰かによるものではなく、市場構造全体の問題である可能性が高い。時間はかかるかもしれないが、複数の要因を少しずつ解きほぐして行けば、欧米並みのハイイールド市場の創設も、夢ではないと期待する。

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