国内起債市場を斬る 起債評価:2/26~3/2

機関投資家向けに募集される新発債券の一般的な条件決定は、3月中旬までである。したがって、2017年度の起債市場もあと10日程度といったところだろうか。既に市場関係者のところには、起債評価機関から年度の起債評価に関するアンケート用紙が届いていることだろう。もっとも近年は、用紙というよりも投票様式だったり、オンラインの入力案内だったりといった形態であるようだ。

基本的に、日銀によるイールドカーブコントロールが続いて、多少長期金利が動いたものの、概ね金利水準はコントロール下にあったと言って良い。加えて、日銀はしつこく3年以内の社債買入を実施しているのだから、極端な格下げ銘柄や経営不安銘柄を除いて、社債のスプレッドが拡大することも考え難い。こうなると、起債に関する評価は売れたか売れなかったかという要素よりも、起債運営が適切に行われていたか、セカンダリーの実勢を発行条件に反映していたか、といった要素の色が濃くなる。債券が投資家に売れて当然な市場環境だからである。2月23日のように、募集された社債がいずれも苦戦したというのはレアな日であり、金利の変動についても、本来はスプレッドプライシングで対応できるはずのものである。日銀によるマイナス金利の導入でスプレッドプライシングの機能が低下している年限であれば、金利水準の変動が激しい状態に陥ると、債券の値決めが容易でなくなる。日銀は機能低下を否定するが、こういった状況こそが市場による価格発見機能の阻害に他ならない。官僚のような言葉遊びに陥ることなく、率直かつ真摯に市場の声に耳を傾けることが、中央銀行に望まれる姿勢であろう。

年度末が近付いても、慌てて債券を募集する動きは見られない。金利の先高感については、黒田総裁の再任が提案されたことで、政府による金融緩和の継続期待が明確に示された形となり、2月頭の金融市場に大きな変動以前に戻ったと言って良いだろう。欧米の経済回復が良好で金融緩和が縮小され、米国が利上げを複数回実施したとしても、日本の金融緩和は容易に揺るがないということなのだろう。特に、株価が大きく下げて戻って来る局面でも、為替が概ね円高に推移したことは、為替市場が転換期にあることを示唆している可能性がある。かつてのような円高イコール株安という図式が成り立たなくなっているのかもしれない。今後の展開に注意すべきだろう。

メーカー等のレア物の起債が行われ、投資家の購入意欲はなかなかに強い。フリークエントイシュアーの社債も含めて、概ね順調に新発債が消化される展開となっている。投資家が3月の声を聞いてスタンスを変えたというよりも、市場実勢に配慮したプライシングが行われていることのようである。特に、超長期債に対する投資家の需要は強いようである。ただし、そのことが必ずしも発行体に対する超長期の与信を是とした行動でないことには留意しておきたい。期限前償還条項の付された劣後債も含めて不動産セクターの40年債に対する与信については、今から40年前がバブル経済の萌芽もなく、二つのオイルショックの狭間であったことを思い浮かべると容易であろう。あなたは40年間その債券を持ちきれるか?純粋な民間事業会社にとって期限前償還条項の使用不使用は、経済環境や事業環境を考慮した経済合理性によって判断される。現状以上の更なる金利低下は考え難いが、金利が上昇していれば、低利付債に含み損が発生している可能性は高い。20年や30年後の担当者に、その処理や負担を押し付けて良いのか?投資家はより慎重に超長期の与信が意味することを考えておくべきだろう。

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