国内起債市場を斬る 起債評価:3/5~3/9

いよいよ社債等の募集される日も、年度内残りがわずかになっている。普通に考えても、3月12日からはじまる週が最後であると考えられる。それでも、まだ起債観測の上がっているものが複数あり、金曜日の16日まで募集が散発される可能性が高い。投資家としても引受証券会社としても、分散するのは歓迎であろう。

既に3月5日からはじまった週でも、債券の募集はパラパラといった感じである。特に、日銀の金融政策決定会合を意識したということはなく、むしろ慌てて起債する発行体が少なく、投資家も年度末が迫ったからといって、社債等に対する投資スタンスが変わるものでもない。メーカーの起債が本数として目立つ中、圧倒的な人気で消化されたのが、不動産銘柄であった。

まず、6日に野村不動産ホールディングスが40年及び42年の劣後債を募集している。いわゆるハイブリッド証券と呼ばれるものである。格付けは劣後性を反映して、R&IのBBB格とJCRのBBB+格である。一般的にBBBゾーンの普通社債で超長期年限のものを購入する投資家はいないだろう。それが、ハイブリッド証券などという美名を付されると、手を出してしまうのが一部の投資家の浅はかなところである。確かに、40年債は10年経過後に、42年債は12年経過後に期限前償還条項が付されており、発行体がコールオプションを有している。クーポンのステップアップ幅は、いずれも100bpsである。ハイブリットなのは発行体であって、10年や12年経過した時に、金利水準そのものがどうなっているのかというリスクを、どう捉えるかである。

また、不動産業界や野村不動産ホールディングスの状況がどうなっているだろか。いずれにせよ、これらの劣後債を単純な10年債や12年債と考えて投資するのは誤りである。金融庁によって期限前償還を監視されている金融機関とは異なり、事業会社の場合には、平気で、経済合理性の観点から期限前償還の適否を判断するだろう。仮にまったく期限前償還されなかった場合、不動産会社の社債に対する40年や42年の投資は正気の沙汰でないだろう。1980年代に不動産を含むバブル経済が膨れ上がったのは、30年ちょっと前のことでしかない。40年も先のことを見通せる業界ではないだろう。

そういう意味では、8日に募集された三菱地所の40年債も悩ましい存在である。野村不動産ホールディングスの40年物劣後債は、当初10年のクーポンが1.3%であった。一方、三菱地所の40年債はシニア債であるものの、クーポンは1.313%である。野村不動産ホールディングスの劣後債は、クーポンのステップアップが予定されており、一方で、10年経過時点以降に早期償還される可能性がある。劣後債であるから、当然、発行体の破綻時には債務の回収可能性が低い。三菱地所の40年債はシニアであるから、元本は優先的に回収できる。しかし、40年間のクーポンはフラットである。丸の内の大家と呼ばれる同社に関しては、信用力の低下を懸念する必要性は小さいかもしれないが、南海トラフや東京直下型での地震発生を考えると、今後40年間で大きな損害を受ける可能性は小さくない。やはり不動産会社に対する40年とかの与信については、より慎重に考えるべきではなかろうか。安易に現在のクーポンの絶対水準だけを見て投資を行うと、将来のファンドマネージャーが涙することは必至であろう。

コメントは受け付けていません。