国内起債市場を斬る 夏季特別号:日銀のYCC修正と起債市場

日本銀行は、7月終わりの金融政策決定会合で、既存の長短金利操作付量的質的金融緩和(YCC)の微修正を決定した。公表文のタイトルは「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」とされており、引続きの金融緩和姿勢を示している一方で、10年国債利回りの変動幅を「概ね±0.1%の幅から、上下その倍程度に変動し得ることを念頭に置く」としており、市場では金利上昇を容認したものと解している。現時点での理解はそれでよいと思われるが、一方で、変動幅を倍にしたことから、状況によっては、10年国債利回りがマイナス0.2%にまで下がることを認めているものと考えることができる。今年の後半以降、グローバルな景気後退等から再度の金融緩和が求められた際に、利下げ幅の存在する米国や、資産買入れの再拡大が可能な欧州と異なって、日本の場合には金融緩和の更なる余地は困難であった。それが、金利変動容認幅を拡大したことで、金融緩和の強化可能性を確保したのである。

今回の微修正では、10年国債利回りの変動幅拡大の他に、政策金利のフォワードガイダンス、政策金利残高の見直し、ETFの銘柄別買入れ額の見直しなどが決められており、社債の買入れについては、現在の買入ペースを維持するとする。しかし、今回行われたYCCの微修正が金融市場の副作用を意識したものであるならば、社債の買入れについても、見直してしかるべきだったのではないか。

日銀による社債の買入れは、残存3年以内の銘柄を流通市場から買入れることとしており、格付けはBBB以上とされている。その結果、新発の3年債のプライシングが明らかな異常水準になっているのである。特に、日銀はマイナス利回りでも社債を国債と同様に買入れるために、3年の新発社債のクーポンは0.001%などの極めて低廉な水準に設定される物が増えている。それらは一旦、引受けた証券会社から投資家に売却されるものの、すぐに証券会社によって買い戻され、証券会社は日銀オペに入れるのである。こうして投資家は社債を投資ではなく短期売買の対象にしているのである。思い起こせば、1985年前後の新規上場の公募転換社債を思い起こす。新規発行の転換社債を、傷んでいる特定金銭信託で購入して頂き、上場後他の特金と何度も媒介を交わして、暗黙の利益確保と売買高競争を公然と仕組んできた。現在行われているフローを見ても本来の社債投資でなく、日銀のオペが社債のディーリングを促しているのである。これを副作用と言わずとして何とする。

日銀は2%の安定的な物価上昇が実現できない限り、現在の枠組みでは、金融緩和を後退させることが容易でない。今回のYCCの微修正にしても、かつて大本営が撤退を転進と言い換えたと同じような表現変更であり、本音と建前の使い分けに腐心している。社債オペの見直しも直ぐに行われることはないだろう。果たしてその先に健全な社債市場はあるのだろうか。仮に2%の安定的な物価上昇が実現できても、社債市場のみならず、国債市場や株式市場を大きく歪めてしまっては、残った副作用が大き過ぎると考えられる。

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