国内起債市場を斬る 2018年度半期末特別号:格付けのタイムホライズンと超長期債

この9月に募集された民間企業の超長期社債(満期一括償還に限る)を順に挙げると、日本たばこ20年債、名古屋鉄道20年債、住友商事20年債、阪急阪神ホールディングス20年債、電源開発20年債、相鉄ホールディングス15年債、日本航空20年債、JR東日本20年債・30年債・40年債、光通信20年債といった顔触れになる。超長期債に投資するメリットは、何と言っても利回りの高さにある。イールドカーブが順イールド形状になっている限り、国債利回りは年限の長い方が高い。社債の場合には、上乗せのスプレッドの水準によって逆転する可能性もある(例としては、JR東日本40年債のクーポン1.246%に対し、光通信20年債は2.12%クーポンである)。

超長期債に投資する際に投資家が考えなければならないのは、投資によって負うリスクである。近似的には、価格変動リスクをデュレーションで、信用リスクを格付けで測るというのが一般的な投資家ではなかろうか。前者に関しては、現在のような低金利が大きく変動した場合には、デュレーションの計測だけでは不十分である。デュレーションだけでは近似しきれない金利変動の影響については、コンベキシティを考慮すべきであろう。しかし、もっと大きな問題は信用リスクを評価する際の格付け利用にある。

格付けに関しては、超長期債の抱える信用リスクを適切に示す指標ではないと断言するのは、言い過ぎだろうか。そもそも格付けとは、一民間企業である格付会社が発行体及び当該債券に対して付した信用度合いの評価である。監督官庁に届出しており、定期的な検査を受けていることから、専門的な評価機関であることを否定しないが、果たして格付けのタイムホライズンは、どの程度の期間だろうか。

一般的に企業が作成している中期計画は、3年~5年といったところだろう。それに、各業種の専門アナリストが長期的な当該業界の事業環境と、当該企業の先行きを推計しても、10年以上の先を見通すことは不可能だろう。9月に超長期債を募集した企業の中でも、日本航空が経営危機に陥り社債をデフォルトしたのは2010年のことであり、まだ、10年も経過していないのである。幾ら公的資金による支援があったとは言え、破綻して10年以内の企業が20年債を募集しているのは、奇異な姿であろう。結局のところ、超長期債の信用リスク評価においては、格付けは役に立たないということを肝に銘じるべきである。

超長期債の投資に際しては、格付けを見るだけでなく、その先の保有期間に対する業界及び発行企業の分析を、個々の投資家が真剣に実施して安全という判断を下してから投資を実行しなければ、投資家としてのスチュワードシップに反すると言っても良いだろう。個別企業の遠い将来を予想するのは難しく、ウェイトとしては業界分析と相対的な位置付けが主体にならざるを得ない。結局のところ、将来の業界像を比較的容易に推測できるのが、規制業種であり、電力・ガス・鉄道といったところが、超長期債の主な発行業種になるのは、自然のことなのである。それ以外の業種については、真摯に20年後のその企業がどういう状況にあるかを考えて投資すべきである。また、将来の20年先が難しいのなら、20年前がどのような会社であったかを考えることにも意味があろう。年限の長さはデュレーションの長さに繋がり、結果として価格変動の大きさをもたらす。それほど、超長期債投資におけるクレジットリスクを初めとするリスクファクターの分析と投資判断は、容易なものではないのである。

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