国内起債市場を斬る 起債評価:10/22~10/26

下期入りしてからの起債ラッシュは峠を越えたようだ。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券が募集されなかったこともあって、募集された本数も少ない。日本政策金融公庫の2年物財投機関債は、0.001%クーポンで100円00.2銭というオーバーパー発行であり、単利を計算すると0%になるのであるが、2年債で信用懸念の乏しい発行体であることが評価されて、募集された300億円をはるかに上回る投資家の購入希望が集まったようである。同年限の国債を購入したら利回りはマイナスであり、国債対比スプレッドという意味でも、投資妙味はある。しかし、利回りが0%でも投資家が購入に殺到するというのは、強力な金融緩和の弊害でしかない。

 

この週の起債では、もう一つ公的セクターの起債が面白い。日本高速道路保有・債務返済機構の第209回財投機関債である。発行年限は30年であまり珍しくないのであるが、一般的な年2回利払ではなく、満期時一括利払という形態になっている。既に同機構は40年債で同様の利子一括払の債券を発行しており、これまでは通常の年2回利払債と同日に募集してきたものである。利子一括払が割引債もしくはゼロクーポン債と異なるのは、割引債等では、期間対応で利息を未収認識するとともに、元本をアキュムレーション処理する。その結果、徐々に元本単価は償還時の100に近付くのである。一方、日本高速道路保有・債務返済機構の募集する利子一括払債においては、発行単価は償還時の元本単価と同じく100である。結果として、アキュムレーション処理は行われず、期間対応で利息の未収利息が積み上がって行く構造となっている。

 

こういったスキームが採用でき、そして投資家から受入れられるのは、発行体の信用力が高いからに他ならない。実質的に政府と一体であると想定できる高い信用力は、未収利息が回収不能になることを懸念させないのである。それでも、購入時点から会計上の期間収益は計上できるものの、基本的に償還時点までは実際のキャッシュフローが生じないのであるから、投資家のキャッシュフロー、経済価値は異なる。特に、現実のキャッシュを必要とする投資家からは、これらの利子一括払債券に対しては、投資総額の自制が必要になる。極端に言えば、年複数回の分配金支払を行う投資信託や毎年の配当支払を行う保険契約の裏付け運用として、全額こうした利子一括払債券のみを保有していると、現金は間違いなくショートしてしまう。つまり、こうした利子一括払債券は、会計上の収益認識が可能であり、同時に、現物の必要キャッシュフローを他の投資対象で賄える投資家しか購入できないのである。更に、利払が償還時点にしかないということは、期中の利払収入を利用した複利運用も出来ないということであり、複利利回りで見ると、更に不利な投資対象となっているのである。

 

結果として、利子一括払債は一般的な年2回利払債よりも、高いクーポンで設定されることになる。9月に募集された同機構の40年債で確認してみると、利子一括払の第207回債は1.373%クーポンで、年2回利払債の第208回債は1.183%クーポンであった。つまり、19bpsの価格差が設けられていたのである。30年や40年といった遠い未来にまとめて入って来る利息を、現投資担当者が責任を持って買えるのか。負の遺産を残してしまう懸念は、ないのであろうか。やはり発行体の信用力とその安定性が大きくものを言うスキームなのである。

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