国内起債市場を斬る 起債評価:12/3~12/9

12月に入っても、起債ラッシュが続く。とは言っても、相変わらずの金曜集中のパターンである。主に財投機関債の募集が中心で、それ以外には、メーカー等の起債が散見されたに過ぎない。起債ラッシュは木曜の6日から徐々に盛り上がり、7日の金曜日が案件の大量集中日になってしまった。

12月7日は起債ラッシュの中でも大量集中日となったのであるが、本数が多かっただけでなく、金額面からは、楽天のハイブリッド債3本計2,990億円が大きい。ノンコール期間を5年、7年、10年と別々にした3本であるが、金融機関系の法人が発行する劣後債とは異なり、事業会社の劣後債はコールされない可能性を頭の片隅に残しておくべきである。確かに楽天の場合は、傘下に銀行や保険会社、カード会社を持っており、金融関連事業のウェイトも小さくないのであるが、ネットでのEコマースのプラットフォームが主体であり、現在は、モバイル通信への参入が進行している。日本の社債市場において、これまでにデフォルトを起こした業種の上位は、何と言っても小売、不動産である。必ずしも楽天のデフォルト確率が高いと指摘するわけではないが、金融系法人の劣後債よりも、コールされない可能性は残る。つまり、今回募集された劣後債を、5年債や7年債、10年債としてのみ考えるのは危険であろう。そもそも、ネット通販のプラットフォームという事業も海外展開は苦戦しており、モバイル通信への傾注も、直面するビジネスの限界を打破するためのものとしか解されない。果たして今回募集されたハイブリッド債は、投資家の想定通りに早期償還されるだろうか。楽天をビジネス環境の変動性が高い小売業が中心と考えるならば、到底、35年とか40年の超長期に渡る与信は難しいのではないか。

このような起債ラッシュの最中でも、複数のネガティブなインシデントの発生が確認されている。一つは、一部の案件で主幹事証券からSMBC日興証券が降ろされている件である。これは同社の元職員がインサイダー取引の疑いで逮捕された事件が発生したために、公的な発行体やガバナンスを強く意識する投資家が敬遠したためと見られる。しかし、すべての募集案件から外されてはおらず、発行体との関係や債券の募集状況等も考慮したものと考えられる。当面、一部では同様に降板する案件等が見られるかもしれないが、金融庁へ業務改善計画を提出する等の禊(みそぎ)を経て、年明けくらいには市場参加者のほとんどが本件を忘れてしまっているのかもしれない。

もう一つは、債券募集を見送る発行体が幾つか見られていることである。以前に見送られた募集の復活も、前週のキリンホールディングスやこの週のリコーなどで見られるが、前月下旬に内部告発による不祥事発覚を受けてオリンパスが10年債の募集を見送ったのに続き、日本航空も副操縦士が飲酒により英国で有罪とされて禁錮刑を言い渡されたことに加えて、複数の飲酒問題が表面化したことを受けて、5年債の募集を見送った模様である。不祥事等が公になった際には、株価は特に下落する可能性が高いものの、社債に関しては、元利金の返済可能性は金融機関の支持や強固な経営基盤等があれば、影響を受けない可能性が高い。しかし、それでも社債募集が見送られるのは、投資家が、一旦、不祥事の判明した企業の社債への投資を敬遠するためである。やや非合理的な行動にも見えるのであるが、不祥事が経営状態に長期的に及ぼす影響を考慮すると、暫時様子見になるのも無理はないだろう。まあ、起債ラッシュの中、案件集中日に無理して社債を募集することもない。

いよいよ年内の社債等募集も、カレンダー的には12月10日の週一杯がほぼ最後になるだろう。まだ年内の債券募集を考えている発行体が残っているようだし、週後半に向かって市場は慌しくなりそうだ。

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