国内起債市場を斬る 年末特別号:2018年の起債を振り返る

一年分の起債を並べてみると、幾つか今年の特徴が浮かび上がって来る。まず、ここ数年続いているものではあるが、今年も3年債の起債が比較的目立ったことであろう。国債とは異なり、基本的にバイ&ホールドの投資目的が多いために、社債等一般債の利回りはマイナスになり難い。利付国債はどんな年限でも日銀が購入対象にしており、当該年限の市場実勢であればマイナス金利でも購入してくれるのである。ところが、社債に関しては、残存3年以内が日銀の購入対象であり、実勢に応じてマイナス金利でも購入する。結果的に、3年債がプラス利回りで募集されたものを、日銀オペ持ち込めば瞬間的に売却益が約束されるのである。日銀の購入対象銘柄については、格付けの制限がある他に、同じ社債を大量に購入することはしない。つまり、新発3年債がセカンダリーになったタイミングでの、日銀オペ応札がベストになる可能性は高い。結局、3年債投資のほとんどは、猿でもできる日銀対応の「鞘取り」でしかなく、本質的な投資ニーズに見合ったものではない。日銀による社債等オペのルールが変わらない限り、来年以降も、同様のことが見られるだろう。

次に、事業会社によるハイブリッド債が引続き見られたことである。ハイブリッドと言えばまるで「EV」を連想し聞こえは良いが、つまりは、劣後債である。借入金には結果的に多少劣位になるかもしれないが、優先債権となる普通社債と、普通株式の間にあるものがハイブリッド債と呼ばれ、社債に近いものが劣後債であり、株式に近いものが優先株と呼称される。資本性や利払いの繰延可否等の認定で、株式か債券かに近付く。古くから金融機関による劣後債の発行は見られていたが、近年では、事業会社等による類似の債券募集も多く見られる。格付会社が資本性を認定することで広く募集されるようになったものであるが、資本性の裏返しは債権者が持つ回収可能性の毀損である。その見返りが、プレミアムの上乗せになる。事業会社の劣後債は、金融機関等金融庁傘下の業態による劣後債とは異なり、利払いの繰延や元本償還の延期といったアクションが、発行体の裁量判断のみに任される。結果として、信用力の大きな低下や環境変化の生じた場合には、早期償還等が実行されない可能性が残る。つまり、どんなに早期償還条項やクーポンのステップアップ条項が付されていても、早期償還されない可能性を考慮し、契約上の最終償還まで元本が返済されない可能性を脳裏に入れておかなければならない。事業環境の変動が大きな企業の超長期劣後債は、どんなに慎重に企業・業界分析を行っても、やり過ぎということはないだろう。

今年の大きな特徴としてもう一つ挙げるなら、環境債やグリーンボンドと呼ばれる、ESG投資を意識した債券の募集である。株式の領域で進んできたESG投資が債券の世界にも及んできたのである。しかし、実際に発行した顔触れを見ると、メーカーならまだしも、ノンバンクや鉄道機構、更には、ANAホールディングスといった他業種の例も見られる。環境省等の外部に基準に合致していることを認定されたのであるが、より精緻な基準が必要ではないか。建設する訓練センターの設備が環境に配慮したものであるからと言って、それがグリーンボンドと言えるのだろうか。ノンバンクの例で見られる再生可能エネルギー施設の建設に対するファイナンスであるといった資金使途も、金に色がない以上、厳密な区分とはならない。結局のところ、発行体の言ったモノ勝ちであり、厳密に責任財産限定特約等を付さない限り、これでは何でもがグリーンボンドになってしまいかねない。グリーンボンドを投資対象にしているとアピールしたい投資家にとっても、認定されていれば何でも良いのだろうが。

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