国内起債市場を斬る 新年特別号:金融市場の大変動と国内起債

2018年末から金融市場が大きく揺れ動いている。世界的な株式市場の下落は、米アップル社の業績予想引下げに起因するのかもしれないが、背景にはもっと大きな物があるように思える。最大の要素としては、これまで先進国が続けて来た金融緩和の方向変化であろう。資産買入れを中心とした強力な金融緩和は、必ずしも物価全体をインフレへ誘導することはできなかったが、資産価格を下支えし、少なくとも株価を押し上げて来たのである。ところが、既に景気好調なFRBは金融緩和から引締め方向に政策を変更し、ECBも資産買入れの停止に向かって動きはじめた。その結果、先進国経済の基盤となっていたマネーフローの潤沢さが変化しはじめたのである。

一方で、強いと思われてきた先進国経済に、わずかながらも変調の兆しが見えている。米国経済が必ずしも想定されたほどの強さを持続できないという観測は、米中の貿易摩擦が激化し関税引上げ競争へと変化したことで、急速に強まっている。しかも、中間選挙で下院の過半数を失ったトランプ政権は、選挙公約の実現を求めたために、想定外の米連邦機関の一部閉鎖を招来したのである。2月には閉鎖リスクがあると予め考えられていたが、クリスマスから年末のタイミングでの閉鎖は、米国経済に強い負のインパクトを与えてしまったかもしれない。景気は「気」からというのは、決して誤りでない。バブルの過熱も、デフレやスタグフレーションによる沈滞も、世の中の雰囲気と極めて強いリンクが確認される。経済が弱いかもしれないと感じてしまったところから、自己実現がはじまった可能性は高い。

アップルショックによる株価の下落による影響は、米国の株式市場に留まらない。為替はドル安円高になり、日本の円金利も大きく低下してしまったのである。既に年末に10年国債利回りはイールドカーブコントロール導入以降見られなくなっていたマイナスとなってしまっていたが、年明けは更にマイナス0.05%といった深さになったのである。日本銀行が昨年7月に変動幅を拡大しているため、マイナス0.2%までは政策の変更もなく許容される。市場参加者の少ない時間帯でのオーバーシュート気味であるが、2019年の起債市場は10年金利がマイナスの状況からはじまることになろう。

イールドカーブコントロールが導入された2年3ヶ月前のことを、思い出した方が良いかもしれない。10年金利がマイナスに沈んだことで、10年債のプライシングには国債利回りを参照したスプレッドプライシングが難しくなり、利回りの絶対水準で行わざるを得なくなる。5年債や7年債より短い年限で定着しているプライシング方式の採用が拡大されるのである。さすがに20年債のような超長期の利回りまでマイナスになることは想像し難いが、過度な低利回りは投資家の債券購入意欲を減退させるために、スプレッドの上乗せを求められる可能性も高い。一方で、短い年限で利回りを確保できない投資家が、スプレッドに目を瞑って(つむって)利回りを確保しようとするならば、長い年限の債券はスプレッドがよりタイトになることも考えられる。足元の低金利・マイナス金利が継続すると見るならば、債券の購入を継続する可能性もあるが、もはや円金利・クレジットに投資妙味を感じず、当面の債券購入を先送りにすることも考えられる。果たして市場参加者はどちらの方向に向かうだろうか。それでなくとも、2019年の世界経済に対しては懸念を呈する見方が少なくないため、起債市場だけでなく、世界の債券市場全般が低迷した展開になることも十分に考えられる。どうも明るい新年は期待し難いのではないか。

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