国内起債市場を斬る 令和元年特別第2号:電力債に風は吹くのか

東日本大震災と福島第一原発の事故を受けて、変わったものは幾つかあるだろう。日本経済は一旦大きく低迷したものの、復興景気によって景況感は回復した。所得税及び法人税は復興特別ということで、税率の引上げが行われた(所得税は2037年までだが、法人税は2014年3月まで)。社債の世界で大きな影響があったのは、電力債に対する認識の変化だろう。

電力債は、商法・会社法の枠組みとは異なる形で債券募集が行われて来た。戦後の高度経済成長を支える柱としての電力供給を行う電力各社に関しては、社債の発行限度や格付基準などで別格の扱いを受けていた。現在でも見られる一般担保付の仕組みは、電気事業法の規定に基づくものであるが、公共的性格を有する発行体にのみ認められた特別の取扱いである。特定物を担保としないために、歴史的には有効性に関して疑義を呈されることもあったが、実際には、事故賠償金にすら対する優先的な弁済順位が確認されたことで、無担保社債とは別格な存在であることが広く認知されたのである。

それまでも、電力債に関しては、総括原価主義や監督官庁による料金の認可制、徐々にしか進まない電力事業の自由化等から、超長期債の募集が継続的に見あれる数少ない業種の一つであった。しかし、福島第一原発の事故処理に際して奉加帳方式で他の電力会社が負担を求められたことや、原子力発電所の稼動が抑制されたことから、電力債に対しては、同じ格付け符号の一般社債よりも厚いスプレッドが求められるようになったのである。厳密な意味では電力債でない電源開発の社債(一般担保付ではないが、社債管理会社は付されている)も、未完成の原発を有していることで、沖縄電力を除く電力各社と同等の状況に置かれている。

東日本大震災以前でも、電力債の募集は社債募集のシーズンの最初に行われることが珍しくなかった。それから8年が経過し、今では、再び電力債が募集シーズンの頭で動くことも見られている。本年度の社債募集も、4月の頭の顔触れを見ると、東北電力、電源開発、関西電力といった名前が並んでいる。令和への代替わりの十連休明けも、中国電力の個人向け社債の条件決定が行われている。電力債に対しては、結局、放射性廃棄物の処理方法が確立できない原子力発電と、二酸化炭素の発生が不可避な化石燃料を利用した火力発電とが、主要な発電方法である以上、グリーンボンドや環境に配慮した企業と声高に叫ぶのはおこがましい。

債券の世界でもESG投資が強く言われるようになると、電力のみならず、その他の多くの産業においても、債券募集にブレーキのかかる可能性がある。化石燃料を燃やしている運輸業や、そのための機器を作っている自動車メーカーだけでなく、多くの電気を利用している非鉄金属や放送業なども、怪しいものである。PHV等に注力する自動車メーカーも、太陽電池等の再生可能エネルギーを利用しない限り、既存の電力会社からの電気で充電している限りは、グリーン特性に問題があると考えるべきだろう。二酸化炭素を排出しない燃料電池車は環境に優しいかもしれないが、水素を精製する際に電力を利用しているならば、五十歩百歩なのかもしれない。

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