国内起債市場を斬る 起債評価:5/27~5/31

起債が本格化したと宣言したが、幻となってしまった。結局のところ、この週も31日金曜日のみ社債等が募集されるという歪んだ構成である。条件決定された金額だけを見ると、巨額であるが、それが、起債市場の活性化とモーストライクリーと言えるものではない。

募集金額が大きくなったのは、武田薬品のハイブリッド債が5,000億円と巨額の条件決定及び募集を行ったためである。ハイウリッド債と言えば個人投資家にも聞こえは良いが、正しくは劣後債である。債券の特質と株式の特質とを併せ持つことから、ハイブリッド証券と言われるが、それはリスクの所在を誤魔化そうとしている可能性が高い。通常の社債に対して劣後し、普通株より優先されるという位置付けを誤ってはならない。

そもそも今回の劣後債は、負債としての側面と資本としての側面を有する観点から、60年債と超長期の償還年限が設定されており、一方で、5年4ヶ月が経過した時点以降、発行体による期限前償還が可能である。劣後債もしくはコーラブル債の特性を正確に理解していない投資家は、期限前償還を所与として5年4ヶ月債と理解するかもしれないが、あくまでも期限前償還は発行体のオプションである。それが、JCRのA-格を付された5年4ヶ月の社債にしては高水準となる当初クーポン1.72%の理由付けである。

かつてのように財務内容の良い武田薬品であれば、5年4ヶ月の与信は何ら問題なかったかもしれない。しかし、巨額のM&Aによって財務構成が悪化し、長期発行体格付けはJCRのA+格でしかない。しかも、劣後債が期限前償還されなければ、最悪60年債となる。薬品メーカーの業種特性を考えると、長期の与信については慎重にならざるを得ない。繰り返しになるが、中期債か超長期債かは投資家が決めるのでなく、発行体が決めるのである。確かに、期限前償還可能期を越えると、円ライボー+175~275bpsとステップアップする変動利付きにクーポンは変更されるが、発行体がその時点で同残存の調達コストより安ければ、期限前償還しないことも考えられるのである。

武田薬品が今後もM&Aを継続するならば、財務構成は悪化し、負債の調達コストが将来的に悪化する可能性は更に高まる。果たして今回の劣後債が期限前償還されるのか。ハイブリッドローンの借換えによる資本性維持を公言した多くの企業が、年数が経過したら前言を翻して、コストの高いハイブリッドローンを償還させた事例は多く確認されている。即ち、期限前償還を前提にして投資することは危険であり、当座の利回りの高さに惑わされず、十分な発行体及び業界の分析を行って投資しなければ、数年後に「こんな筈では・・・」となるかもしれない。

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