国内起債市場を斬る 起債評価:6/3~6/7

6月第1週の起債は、予想以上に本数・金額ともに発行ラッシュとなった。5月最終週は、武田薬品の劣後債5,000億円が募集されたために金額は大きくなっていたが、本数と言う意味では、6月に入っても、ペースは大きくは落ちていない。社債を発行した企業の業種も、銀行、メーカー、ノンバンク、運輸、電力と幅広くなっている。金額という意味では、みずほフィナンシャルグループの永久劣後債が2本計900億円、日本製鉄の社名変更後初の公募社債3本計800億円といったところが大きい。財投機関債でも、住宅金融支援機構が3本立てで計750億円を募集している。

5月下旬からの起債市場で顕著なのが、野村證券の主幹事外しである。野村證券の不祥事と5月28日に持株会社及び同社に出された業務改善命令について、ここでの詳しい解説は避けることにする。東京証券取引所の区分見直しに関する未公開の検討内容を、営業に用いたことに起因する。そもそも東証が安易な第一部への区分変更を認めたために、東証一部の銘柄数は2千を越え、かつてのようなステイタス感を喪失している。区分の見直しは必須であり、放置することは逆に東証一部の意義を損なう結果になりかねない。ところが、企業は東証一部の看板にしがみ付こうと、検討内容に注目している。その検討内容は企業側には重要な情報であり、野村證券の営業部門が情報に重要な価値を見出すのは当然だろう。多くの投資家は、金融庁より業務改善命令を受けた証券会社との取引を期間限定で停止する。特に、公的機関や金融庁監督下にある銀行、保険、運用会社等は、取引を継続した場合の説明責任を負う可能性が高い。投資家が手を引くのが明らかになっている以上、その反対にある債券の発行側も、主幹事としての地位を野村證券から剥奪するのは已むを得まい。

5月中旬以降の起債市場において、事前の報道から野村證券が主幹事から外された事例を見ると、少なくとも、大阪ガス、小松製作所、ホンダファイナンス、東京地下鉄等がある。主幹事指名の前や報道以前に外された例も他にあろう。過去の事例を見ても、野村證券が業務改善計画を提出し金融庁が受取るまでの暫時、起債市場のメインストリームから、同社は姿を消すことになるだろう。もっとも、法的なサンクションではないために、発行体と投資家の双方が問題視しなければ、野村證券が主幹事の一角を務めることもあり得るし、予定されていた単独主幹事案件では、そのまま主幹事を務めることもあるだろう。

結局のところ、リーグテーブルに若干の影響があり、同社の引受収益が低下する結果となる。過去の同種の事例から見ても、今回は他社で同様の不祥事が生じるとは思えないために、単独での影響となるだろう。市場環境に配慮した条件決定を可能な主幹事証券としての評価が高い野村證券が、起債市場での位置付けが小さくなるために、案件によっては、投資家の目線から外れた発行条件で決定される可能性も考えられる。結果として、長く国内キャピタルマーケッツに君臨していた野村證券の市場ハンドリング力が、再び評価されることになるのかもしれない。他の証券会社は、特に大和証券は野村證券がいないからと言って、市場環境の把握を怠ってはならないだろう。

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