国内起債市場を斬る 起債評価:7/29~8/2

かつて「梅雨明け十日」即ち「夏本番」とよく言われてきたが、日本の夏の暑さは、いまや猛暑、酷暑を超えている。3月期決算企業の第1四半期末の速報発表がある中で、起債市場の動きは、案件が融けるように少なくなっている。昨今は、まとまった日数の休暇を取得させることが企業の義務とされており、発行体である事業会社でも、引受証券会社でも、更には、債券の購入者である投資家も例外ではない。結果として、7月の終わりから8月前半にかけては、全般的に低調な市場動向となってしまう。

この中で、二つの複数年限の起債が確認された。最初の案件は、三菱地所による7年債100億円・10年債300億円・20年債100億円の計500億円の募集である。丸の内の大家と呼ばれるオフィスビルだけでなく、旧藤和不動産を統合したレジデンスによる個人向け住宅事業、更には、ショッピングセンターやホテル等を営む総合不動産企業である。人口減少の影響も、都心のオフィス事業が好調であれば、大きなものとならないことが期待される。とは、言っても、20年債についてどう考えるべきだろうか。これまでの20年間においては、バブル経済の崩壊によるプレッシャーは強く受けたものの、相対的に三菱地所は安定した状況であった。次の20年も、継続して安定した状況が期待できると考えられるなら、投資対象になり得るだろう。しかし、クーポンは0.59%に過ぎない。国債よりましな利回りであるが、5年や10年経った時に、15年債や10年債を購入するのと、どちらが有利だろうか。

もう一つの複数年限での起債が、光通信の5年債50億円・7年債50億円・15年債400億円の計500億円の募集である。15年債の募集金額は300億円程度と見られていた時期もあったが、増額されて400億円となり、総募集額は500億円で三菱地所と並んでしまっている。15年債のクーポンは1.38%と他ではなかなか得られないような高水準であった。同社の格付けはR&I及びJCRのA-格であり、15年という調達年限を不適切に思わない投資家も少なくないだろう。しかし、過去に財務状況の悪化に伴い、既発債を割安に買い叩いて買入償却した同社について、果たして投資家は過去のことと割り切ることは出来るだろうか。結局のところ、資本市場において発行体と投資家、証券会社の間の信頼関係は長期にわたって築き上げるものであり、それを損なった場合には、容易に回復することは出来ない。果たして光通信の今後の15年間は、どういったことになるのだろうか。

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