国内起債市場を斬る 2019年夏季特別号:国債投資の代替手段【前編】

先進国の国債利回り低下の再来である。国債で十分な利回りを得られない場合には、デュレーションリスクをとって債券の年限を伸ばすか、信用力等のリスクをとるかといった選択肢が考えられる。しかし、欧州のように年限の長期化でも国債利回りがマイナスに留まるようであれば、信用リスク等で国債+αの利回りを狙う必要性が出て来る。

国債に対して上乗せ利回りのある債券商品としては、社債をイメージするのが一般的である。社債の上乗せ利回りは、国債に対する信用力の差に起因するとされるが、それは単なるデフォルトの可能性のみではなく、信用力の安定性や流動性の差といった要素も影響を及ぼす。また、劣後債のように、回収可能性が劣位にある債券の場合には、その分の上乗せが要求される。ところが、社債に関しては、発行量が多くないために、十分な必要量を確保できない可能性も高い。また、国債からいきなり社債投資へと進むことに躊躇する投資家も珍しくない。そのため、国債投資の代替手段としては、社債の前に他の一般債の購入を検討する投資家も多い。

もっとも国債に近い位置付けの債券として、政府保証債を考えることができる。政府保証債は、法律の規定によって、政府関係機関等の発行する債券の元利払いについて政府が保証するものである。通常に見られる発行体は政府関係機関であるが、過去には、地方公共団体や企業の発行する債券に政府保証が付された例がある。当然に、法定されたものであり、その趣旨は政府による無制限の債務保証提供を抑制することにある。政府保証債は、厳密な信用力という観点では、日本国債と同等と言うことができよう。しかし、発行体による元利金の支払が遅延した場合に政府が代わって支払うと言う観点からは、支払の遅延する可能性を含んでいる。また、日本国債とは必ずしも同等に取引されるものではないために、流動性リスクが日本国債より大きいことも否定できない。結果として、政府保証債は日本国債に次ぐ信用力の高さとなるが、完全に日本国債の代替とすることはできない。

次のグループとしては、財投機関債がある。財政投融資計画に基づいて政府関係機関等の発行する債券であるが、法律に基づく元利金の保証はない。しかし、財政投融資計画は毎年度の一般会計予算と併せて国会に提出されているものであり、財投機関の位置付けを考えると、万一の場合に、政府による支援が行われる可能性は高いと考えられる。そのため、「暗黙の政府保証」が付されていると考えられることが多い。しかし、留意しなければならないのは、その財投機関の担う機能が政府にとって不可欠なものであるかどうかであり、特に民間で代替できる機能であれば、政府による発行体への支援可能性は相対的に低いと考える余地もある。つまり、財投機関債の信用力は政府との位置関係によって変わると考えるべきであり、実際に、格付会社の付与している格付けを見ても、日本国債よりも低い評価となっている財投機関もある。注意しなければならないのは、民営化や民間への事業移転を検討されたとしても、状況が変化することがある。つまり、「暗黙の政府保証」の強さは、決して一定でないということだ。例として挙げるなら、東日本大震災やバブル経済崩壊等の経験から危機対応業務を担うことになって、政府との距離が縮まったとされる日本政策投資銀行や、民間への事業移転が見送られた都市再生機構などがある。

なお、政府保証が付されておらず、財投投融資計画にも基づかない政府関係機関の発行する債券が、数例存在している。金融機関等に向けて縁故募集される債券であるが、発行量が多くなく、市場で話題に上ることは多くない。 (つづく)

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