国内起債市場を斬る 2019年夏季特別号:国債投資の代替手段【後編】

「暗黙の政府保証」とも認識されてれる債券に、地方債というカテゴリーがある。とは言え、財投機関債と同程度の信用力とは、必ずとも言い難い。地方債発行計画も財政投融資計画と同様に、一般会計予算と併せて国会に提出されていることに加えて、2006年の夕張市の財政悪化等を受けて早期警戒処置に基づく対応が定められており、元利金に対する政府保証はないものの、制度的な保障があると考えられている。地方債と財投機関債で異なるもう一つの点が、財投機関債は基本的にすべて格付けを取得して発行されているのに対し、地方債に関しては、格付けを取得せずに発行される銘柄が少なくないことである。夕張市の財税問題は、会計上の不適切な処理による個別事象であったが、そのために向けられた早期是正措置では、財政状態の悪化傾向となった地方公共団体に対しては、都道府県及び総務省が早期に介入することで、信用不安に陥るようなことを起こさせなくしている。つまり、社債で言えば、破綻する手前の信用悪化時点で、強制的に是正を図る措置なのである。結果として、地方債のデフォルトは考え難い。よほど都道府県や日本国政府そのものの財政が悪化しない限り、市町村等の財政破綻を容認することはないのである。

結局のところ、地方債に関しては、格付け取得の有無が大きな差とはなり難いし、むしろ経常収支比率や実質公債費比率等の財政指標をチェックするとともに、当該地域の長期的な経済状況を考慮するしかない。急速に人口が減少し財政の悪化する可能性が高い地方公共団体と、企業本社が多く所在し法人事業税収入等が潤沢な地方公共団体とでは、自ら将来性の差が存在する。中期債ならともかく、超長期債に投資する際には、デフォルトの可能性は極めて低いものの、慎重な分析が必要である。

金融商品取引法上の位置付けでは、国債、地方債は独立したカテゴリーであり、財投機関債の多くは、特別の法律により法人の発行する債券(第2条第1項第3号)に該当する。一部の財投機関債は、株式会社の発行する債券という意味で、同第5号の社債券に該当する可能性もある。社債から投資対象を拡大するというアプローチとは逆に、国債の利回り低下を受けて、国債から徐々に信用リスクを取るという投資家も少なくない。そうした時に、どこまでのリスクを取れるのか、取ることに違和感がないかを考えることは重要であり、ソブリン債だからと言って、闇雲に海外の政府関係機関の発行する債券に飛びつくのはナンセンスであり、更に、それが単純な債券でなく、指数リンク等の複雑な仕組み債であっては、目も当てられない。投資対象が何であるか、それを理解しているかは、投資家にとって常に不可欠な視点であり、それを疎かにするならば、景気低迷等の局面や政府財政の悪化等によって、思わぬ損失を被る可能性もある。投資は自己の判断に基づくべきものであるが、十分な理解がその前提にあることを忘れてはならないだろう。 (完)

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