国内起債市場を斬る 新春特別号Ⅱ:新型コロナウイルスとクレジット

中国武漢市を淵源と想定されている新型コロナウイルスは、中国国内での高速鉄道や航空機網の発達で、中国本土の各地に蔓延するだけでなく、日本を含む世界各国に感染者が出ている。既に死者は中国外でも生じており。かつてのSARS禍の時代とは異なり、既に中東や欧州等短期間で世界全体に広がっていると言って良いだろう。当初の湖北省地方政府による情報隠蔽等の責任は否定できないが、交通網の発達によって現代社会におけるパンデミックとして懸念されていた通りの状況になりつつある。既に小松左京が「復活の日」で予想していた惨状であるが、現状まででは、新型コロナウイルスによる肺炎の致死率が必ずしも高くないことが唯一の救いのようにも思える。もっとも、今後より悪性に変異する可能性はあり、警戒を怠るべきではない。

既に数十の国が中国全土もしくは湖北省等特定地域に滞在していた非自国民の入国を拒絶するようになっている。WHOは往来を制限しないように勧告していたが、各国の世論を考えると、個別政府による入国拒否の判断はやむを得ないだろう。そのため、観光客の減少によるインバウンド消費の減少などだけでなく、インバウンドとは比べ物にならないくらいの大きな影響が世界経済全体に及びつつある。中国が担ってきた世界の工場としての機能は、最低でも数か月の停滞は必至である。工業生産の停滞は、脆弱さが徐々に明らかになりつつあった世界経済の足腰を更に弱らせることになろう。

新型コロナウイルスは経済全般に大きな悪影響があることから、株価全般に悪い影響が出続けるだろう。日によって株価の上下は繰り返されるものの、当面、下降トレンドとなることは必至であろう。同時に、金利の上昇を抑止する傾向は継続する。幸いなことに、金利水準が既にマイナスに突っ込んでいることから、更なる金利の低下は回避できるかもしれない。しかし、全般的な金利の低下もしくは横這いと、クレジット市場の先行きは別物である。新型コロナウイルスの感染拡大は、薬品やマスク等医療関連の企業にのみプラス効果となる可能性があるものの、物流・観光の量的減退に加えて、消費の全般的な停滞と世界経済そのものの悪化から、幅広い悪影響が出かねない。もしウイルス感染の影響が長期間に及ぶようであれば、特に、信用力の低い企業に関しては、業種にかかわらずデフォルト懸念が拡大するだろう。

業種によっては、特に大きな影響を受けるものもあるために、業種毎の脆弱性をよく吟味しておくべきである。新型コロナウイルスの感染拡大による影響を特に強く受ける可能性のある業種として考えておくべきなのは、東証33業種の区分でいえば、電気機器、サービス業、海運業、空運業、卸売業、小売業が、まず浮かぶ。しかし、中国マネーが多く入って来ていた不動産業にも懸念は残るし、経済の停滞が長期間に及ぶようであれば、製造業全般にも影響が及ぶだろう。これらの業種に属する企業の発行する社債が影響を受ける可能性はあるし、逆に、スプレッドが乗るのであれば、絶好の投資チャンスとなるかもしれない。金利低下の趨勢に大きな変化のない中で、こうした市場の状況変化を着実に掴んでおきたい。

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