国内起債市場を斬る 起債評価:3/9~3/13

今年度の起債としては、最終ステージと言える週となった。駆け込みの案件や、大型案件が見られ、例年特殊な事情や特徴のある案件が出て来る時期である。実際に募集された案件の中から幾つか挙げてみよう。

まず、大和証券グループ本社の二本立て永久劣後債である。期限前償還のタイミングで5年と10年の二つに分けられているが、NC5年債が1,250億円でNC10年債が250億円と合計で1,500億円の大型起債である。いわゆるAT1債であり、Tier1に算入される。格付けはBBB+(JCR)格と高くないが、ファーストコールまでのクーポンは1.2%と1.39%であり、通常の社債では得られないような高水準である。魅力的な購入対象と考える投資家も少なくないが、大和証券グループの将来を考えた際に、懸念なしとは言えない。特定の大手銀行、大手外銀グループとのパイプを有しない独立系の位置づけは、野村證券と同様である。しかし、今や「債券の大和」「国際部の大和」のプレゼンスは、野村ほど見られず、脅威を感じるようなグループの展開網はない。大手証券の一角を維持しているものの、経営陣の人選が法人部門にバイアスがかかっている同社には、将来的に経営戦略上の懸念は残る。今月に入っても、経営危機を意識されているドイツ銀行がAT1債の期限前償還をスキップしており、同様の手段をとる可能性がないとは言えない。この劣後債についても、投資家が十分にコールされないリスクを意識して購入したか、興味深いところである。

次に、三井不動産は、15年債300億円・30年債100億円・50年債100億円の超長期債計500億円を募集している。中でも50年債は、対照年限の国債が存在しない中での募集であり、過去に三菱地所、東日本旅客鉄道、大阪瓦斯、東京メトロと4社の発行事例があるものの、三井不動産という会社の安定性は、やや先行4社に劣る。しかも1.03%のクーポンで絶対水準を確保したとされるが、わずかな1%越えでは投資妙味があると言い難いのではなかろうか。

続いて、ソフトバンクは3年債・5年債・7年債・10年債の4年限で各100億円を募集している。ほぼ投資会社と化した親会社とは異なって、携帯電話等を中心とした通信会社であり、現在の事業の安定性は高い。しかも、ソフトバンクグループの社債と異なって、100億円×4本と小額の分散発行である。機関投資家は、十分に投資価値があると判断したことだろう。

最後に挙げるのは、日本航空の3年債及び20年債各100億円である。3年債は日本銀行のオペで買入対象となることが期待できる。しかし、その一方で、新型コロナウイルスの世界的な蔓延で航空ビジネスに甚大な影響の発生が確実視される中での社債募集は、投資家軽視と批判されても仕方ないだろう。既にイギリスではLCCが倒産しており、他の国々でも航空会社が大幅に路線減を強いられ経営危機が意識されている。欧州諸国で国境を閉鎖したり、アメリカが欧州からの渡航を遮断するといった動きが見えており、人と物の動きが止められているため、空運ビジネスに与える影響は軽々なものではないし、まだ、十分に見通すことが出来ない。日本からの流入に対して制限を科したり受け入れを拒否している国は、既に50を超えている。このタイミングでの空運会社の社債募集は、不適切であると言っても過言ではない。

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