国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐1

2019年度内の起債市場の動きは、終了した。3月末に多くの企業が決算を迎えるためである。特に、金融セクターは投資家も引受証券も3月末決算を採用しており、具体的な起債の動きは停滞する。今年度末は、新型コロナウイルスによる肺炎の拡大による影響が色濃く市場に出始めている。特に顕著な影響が見られるのは株式市場であるが、日経平均株価も米ダウ平均も上下の値幅を拡大しながら、基本的に大きく値を下げている。これは、各国中央銀行の強力な金融緩和による株式市場のバブルが、新型コロナウイルスの蔓延によって経済のファンダメンタルズが受ける影響を懸念して崩壊したものとも考えられる。欧米の中央銀行は3月に入って金融緩和を強化し、日銀もETFの買入れを増額しているものの、株価の下落を防ぐことはできていない。こうした状況は、クレジット市場にも無関係ではない。

新型コロナウイルスの拡大による影響は、様々な経路からクレジット市場にも及ぶことになるだろう。一つには、端的に影響を受ける業種としては、収益低下から信用力の悪化が考えられる。まずは、各国が人と物の流れを遮断しているために、空運・海運といった運輸企業が大きなダメージを受ける。既に、737MAXのトラブル問題から経営悪化していた米ボーイング社は、政府に対して支援要請を行っている。また、他の国々でも航空会社の路線休止からレイオフや経営統合に向けた動きが見られており、さらに、LCCの経営危機や破綻も次々に表面化している。海運に関しては、これから徐々に影響が出て来ると思われる。少なくとも、クルーズ船については、プリンセス号に加えてナイル川クルーズでの感染者続出から、当面、大きく業績が損なわれることだろう。

次に、多くのサービス業が影響を受けるのは必至である。代表的なのは演劇、音楽等の興行系企業であるが、クラスター感染のポイントとなったスポーツクラブや接客業等は特に大きなダメージを受ける。社債発行企業は決して多くないが、期限の見えない自粛を求められることから受ける影響は甚大である。しかも、株価の全般的な下落に見られるように、経済全般が大きな影響を受けていることは否定できない。中でも、医薬品等の特定業種を除いて、消費全般が低迷している。生活必需品に関しては、状況に関わらず消費は継続するものの、奢侈品やレジャー系の消費は低迷する。外食産業の受ける影響も甚大である。企業による余剰人員の削減等の対応は進むが、その結果として所得が減少し、消費全般が低迷するという悪循環に陥るだろう。

このように、幾つかの特定業種だけのクレジットが悪影響を受けることから始まり、その影響がマクロ経済全般にまで及びかねない状況である。オリンピックの予定通りの開催可否は単なる象徴に過ぎず、日本だけでなく世界経済に対して新型コロナウイルスの与える影響は大きい。ファンダメンタルズの悪化に加え中央銀行の金融緩和強化もあって、金利の上昇を到底望める状況にはないのである。
(本稿続く)

コメントは受け付けていません。