国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐3

新年度の起債市場は、3日金曜日に三菱UFJリースが3年債と10年債を募集したのに加えて、投資法人債や地方債なども募集されている。しかし、三菱UFJリースも当初は5年債も募集するとしていたのが、慎重なスタンスから取りやめている。また、次週に条件決定を予定していた東プロも、7年債の募集を見送ることを決めている。株価の大きな上下変動のみならず、政府による緊急事態宣言の発表が予定される中では、本格的な起債市場のスタートにはなり難いかもしれない。例年のように、ノンバンクに続く発行体は電力だと思われるが、今後、既に上がっている起債観測のように、電力債の募集ができるのか注視しておきたい。

新型コロナウイルスが長期間にわたって蔓延した場合のクレジット市場に与える影響としては、まず、個別の脆弱な企業が破綻することが考えられる。既に、海外も含めて見ると、空運や小売でデフォルトが発生しているし、日本でも宿泊などでの破綻例が出ている。個別企業の破綻は、同業の中でもっとも脆弱な企業の破綻として現れる。自粛や都市封鎖等が長引けば長引くほど、影響を受けるの個別企業だけでなく、同業他社も含めた業種全体の問題となりかねない。これまでに挙げた業種については、問題の継続する期間が長引くかどうかや、政府等による適切な金融支援が行われるかどうかによって、波及する範囲が変わってくることだろう。

今回のコロナショックがクレジット市場に与える影響範囲は、ここまでに留まらない可能性がある。次の段階としては、金融危機の発生が考えられる。世界各国の中央銀行が必死になって金融緩和を強化しているのは、まず、低信用力企業を中心に脆弱な企業の破綻を回避する取組みであるが、特に、原油価格の下落によってシェール関連企業の財務内容が悪化しており、結果として、ハイイールド債やレバレッジローンで資金調達をしていた企業のクレジットが悪化することを懸念したものと思われる。当該企業の信用力悪化の影響は、プライベートデットやCLO等様々な形態で、日本の地域金融機関や企業年金の財務内容に波及する。個別の地域金融機関の経営問題だけであれば、日本の金融システムへの影響は軽微かもしれないが、地域金融機関は横並びの好きな業態であり、同種の病巣を多くの地域金融機関が抱えて抱えている可能性は高い。多くの地域金融機関の財務内容が悪化するならば、金融システム全般に対する不安が再燃してしまう。

そして、最悪のシナリオとしては、ソブリン危機に至る可能性も考えざるを得ない。自粛や都市封鎖、鎖国状態によって世界経済が沈滞しており、各国政府は大胆な財政出動を開始している。それは、刺激によって委縮した経済を再活性化するためのものであるが、税収確保等の結果が見られない場合には、財政赤字を拡大させ、財政状態の悪い国の信用力を大きく棄損する可能性がある。GDP対比で巨額な赤字を抱える日本の場合には、まだ債務の9割を日本国内の資金でファンディングしているために、格付符号が悪化したとしても、債務返済能力が極端に損なわれることはない。むしろ財政赤字の制約が厳しい欧州各国や、国家の政策総動員で感染者を封じ込めた極東の各国については、財政状態の悪化が心配である。IMFの介入するような状態にならないことを祈っておきたい。更に、原油価格の低下によるロシア経済の赤字拡大によって、ロシアのソブリン問題が再燃する可能性も懸念しておくべきだろう。

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大がどの範囲こまで及ぶのかは、人類の過去の経験では推し量ることができない。100年ほど前のスペイン風邪と同様に、グローバルに甚大な影響が及ぶようになっており、当時とは、世界中の情報や人、モノの移動・伝播速度は圧倒的に速くなっている。まだまだ明るい先行きが見えない中で、過度に鬱になるべきではないものの、慎重に事態の推移を見守る必要があるだろう。
(本稿終わり)

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