国内起債市場を斬る ステイホーム特別号①:日本経済はコロナ危機から脱したのか

4月7日に発表された緊急事態宣言は、同月16日に対象を全都道府県へ拡大した上で、期限を5月31日まで延長している。可能であれば早期に解除される可能性が示唆されているものの、特定地域に指定されている大都市圏では、まだ解除が可能と思えるような状況にはない。その一方、新規感染者がしばらく発見されていない県が多く存在することも事実であり、今後、自粛や制限を緩和する方向へと徐々に動き始めているように見える。

一方、金融市場の動きはどうか。株価は1月下旬に高値を付けた後、新型コロナウイルスの世界的な蔓延と経済的なインパクトを受けて3月中旬に底値を付けている。その後の株価回復局面では、中国等での感染抑圧の成功というよりも、米欧日の中央銀行による金融緩和、特に、企業金融支援の動きが効果を持ったものと考えられる。しかし、このような金融政策による株価の下支えは、日本銀行によるETFの買増しといった極端な政策でなくとも、市場操作の一種であり決して経済のファンダメンタルズに立脚したものではない。つまり、株価が底打ちしたかのように見えるものの、ファンダメンタルズの悪化は、先週公表された米国の雇用統計に見られるように、これから明らかになってくるものが本番なのである。

コロナショックによる企業倒産の発生も、国内では旅館や小規模小売等で多少発生が見られる一方、海外では既に空運や百貨店等の大規模な企業の破綻が生じている。日本においてはロックダウンといった強権的な対策を講じることが出来なかったために、緊急事態宣言が予定通りに解除されても、すぐには以前のように経済活動を回復することは期待できない。当面は、様子を見ながら慎重に経済活動の再開を図る展開になるだろう。つまり、企業収益の回復にはまだ長期間が必要であり、金融相場を実現することで市場価格を押し上げている現状は、サステイナブルでない可能性が高いということなのである。クレジット市場と株式市場は爆弾を抱えているようなものである。こういう状態にある時には、慎重な企業及び環境分析に基づいた投資判断が必要であり、不必要に長期間の与信は避ける必要があるし、信用力に多少でも懸念のある企業への与信は極力避けるべきだということである。98~99当時のクレジット市場が崩壊した際、国内でも残存2‐3年の丸紅、伊藤忠、日商岩井の社債が、LIBOR+2000bp以上で取引されたことを、昨日のことの様に思い出す。年腐りかけた果物が一番甘いと言われるように、信用懸念の高まりはじめた企業に対する与信からは高利回りの獲得が期待できるものの、知名度の高さや過去の名声などだけに頼った与信行為は、すぐに大きなしっぺ返しを受けることになるだろう。

現在のようなもの環境が当面続くとみられる中では、ひたすらに慎重な投資判断が求められるし、「人の行く裏に道あり花の山」と見られるような好機はほとんどないと考えるべきである。今のこの瞬間は、ユニークな投資判断は足元を掬われる可能性が高い。海外企業が日本国内でサムライ債を募集するような状況も、自国内でのファイナンスが容易でないために、情報の非対称性を利用して、日本市場で資金調達を目指している可能性が高いのである。

コロナショックが実体経済に与える影響が顕在化するのは、これからが本番であり、少なくとも国会で家賃支援や大学生に対する給付等の追加経済対策が議論されている限り、まだ底を打った状況にはない。表面的な株価や金利、為替の水準に惑わされることなく、今こそ地に足の着いた投資判断が求められているのである。

(先週の配信は、GW中のため休刊いたしました。)

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