国内起債市場を斬る ステイホーム特別号②:ソフトバンクGの1-3月期1.4兆円赤字に思う

ようやく決算発表シーズンの峠を越え、起債市場は公的・電力・鉄道といった特定セクターのみから盛り上がりはじめている。中でも、まず、日本銀行の社債買入れオペの対象拡大を意識して、九州電力の3年債やJR西日本の3年債及び5年債といった起債が見られる。資本市場の活性化を意識し企業の資金繰りを支援するというのが日銀オペの拡充の趣旨だったはずだが、こういった公的に近い企業の社債買入れは政策意図と乖離した効果しかないだろう。何しろJR西日本の起債は、3年債から50年債まで計7年限で、総計1,900億円もの巨額の募集であった。こういった巨額の資金調達が可能な企業の社債に対して、資金繰り支援という主旨の日銀による買入れオペは馴染まなない。結局のところ、金融緩和の拡大は、コロナショックに対する支援になり難いという限界を露呈しているだけである。

相対的に公的関与の強い業態ばかりであるために、発行年限の超長期化は必然であろう。超長期年限の起債は、住宅金融支援機構の15年債150億円及び30年債500億円、中国電力の25年債100億円、四国電力の20年債100億円、JR西日本の20年債150億円・30年債150億円・40年債100億円・50年債200億円の計600億円とすべてを足し上げると、1,450億円にも上る。JR西日本の50年債だとクーポンは1.031%と高水準になるが、住宅金融支援機構の15年債だと0.342%と低い。どうせ売却する必要をあまり考えなくて良い銘柄群なのだから、バイアンドホールド前提で少しでも高いクーポンをと考える投資家もいるだろう。しかし、現在の金利水準で50年もの資金固定が、後世にどう評価されるだろうか。いずれにせよ、現在の投資担当者が50年債の償還時点まで在任していることはあり得ない。

こうした公的及び周辺セクターの起債によって、ゴールデンウィーク明けの起債市場は動きはじめている。しかし、18日の月曜日に発表されたソフトバンクグループの決算が、1兆4,381億円もの純損失となったことには必ず着目しておくべきだろう。誤解してはならないのが、携帯電話等通信事業を営むソフトバンク(今年の3月に社債発行)は同社の子会社であり、ソフトバンクグループは持株会社である。通信事業は総務省の認可事業であって、仮に経営状況が悪化しても、利用者のユーザビリティを考慮すると、サービス提供会社の破綻処理は考え難い。

一方で、投資会社である親会社に関しては、破綻処理が可能であるし、そもそも実質的に投資ファンドと化した持ち株会社に対する適切な信用力判断は容易でない。単純に現時点でのLTV(Life Time Value:注1)等指標を見るだけでは不十分であり、投資先のファンド等が順調に稼いでいるのか、新型コロナウイルス等経済変動の影響を受けていないか等素人投資家が外から投資判断のできるような先ではない。歴史的に見ても、買収や傘下企業の切出し等で財務構造の変化が著しく、普通社債の投資対象としては格付けのみで評価するべきではないし、適切な事業評価も容易でない企業体である。筆者は繰り返し述べているが、証券会社の営業に勧められて、同社の劣後債を購入するのは、崖から海に飛び込むような丁半博打と同様の投資であり、丁と出れば高利回りを得られるかもしれないが、半と出れば身の破滅となるようなものである。限りなく投機に近い投資対象と考えるべきである。

企業としてのソフトバンクグループは、創業者からの事業承継リスクも強く懸念されており、新型コロナウイルスの影響がどれくらい、いつまであるのかわからない中では、ますます警戒する必要のある発行体の一つである。自己資金で投資判断を行う個人投資家ならともかく、機関投資家が安易に手を出せるような銘柄ではない。
注1:LTVとは、ある特定の顧客が企業に対して、最初の接触時点から、関係性が継続する限りの期間に、企業が得られる収益の総額を算出する指標です。日本語では「顧客生涯価値」とも言うことがある。

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