国内起債市場を斬る 起債評価:6/1~6/5

新型コロナウイルス感染症は、国内だけ見るとようやく沈静化しはじめているようであるが、第二波以降の感染再拡大に対する懸念はなかなか拭えない。消費の低迷に起因する経済への悪影響は、しばらく続くものと思われるが、世界的に株価は2月の水準へと回復している。これを中央銀行による金融緩和のもたらしたミニバブルと考えるのか、それともコロナの早期終息に向けた期待による株高なのか、今後の推移のみがそれを教えてくれることになるだろう。一頃の「先の見えない不安感」が薄れていることは、様々の意味で前向きになる兆候であるが、債券市場について考えると、補正予算に対応する国債増発と日銀による大量買入れの綱引き、それに企業倒産の増加による信用懸念の高まりが加わって、一般債利回りの方向感が掴み難くなっている。

6月に入って起債市場の動きが活発化している。決算発表を乗越え、緊急事態宣言による自粛も徐々に解除されていることから、大型の起債案件も見られるようになっている。それでも、動きが遅いメーカーより、ノンバンク、鉄道などの動きが先行している。相変わらず、日銀による買入れ見合いの3年債及び5年債の募集は目立っているが、それを含めた複数年限にわたる起債が一つの特徴である。野村不動産ホールディングスの3年債200億円・5年債100億円・10年債100億円は、まさに日銀対応の年限で調達金額を稼いでいる。同様の年限設定は、川崎重工業でも見られるが、5年債を300億円と大きく積み増している。JR九州も日銀対応の3年債200億円が募集金額の半分となり、10年債と20年債は各100億円の募集である。

複数年限の起債としては2年限や3年限は良く見かけるが、5つの年限で社債を募集した発行体が2つもあったのは珍しい。一つは東京地下鉄で、10年債から50年債を10年刻みで各100億円を募集した。したがって、合計募集金額は決して大きくない。最近の鉄道関連で見かけられる起債形態で、年限の分散を図ったものと考えられる。なお、10年債のみサステナビリティボンドの認証を得ているが、同社の位置づけを考えると、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の財投機関債のようにすべての年限で認証を得る方が適切だろう。

もう一つの5年限を募集したのが、Zホールディングスである。ソフトバンクグループに属する上場持株会社であり、傘下にヤフーやイーブック、一休、GYAO、ジャパンネット銀行など多数のIT関連企業を有している。上位の持株会社であるソフトバンクグループも同様であるが、あまりにも資本関係が複雑であり、かつ、LINEの経営統合に端的に表れているように、買収やスピンアウトによって企業の将来像が容易に転変してしまうため、社債投資の対象としては躊躇せざるを得ない。今回募集された社債でも1.5年債250億円・3年債800億円・5年債700億円までは、日銀買入れを意識して購入するのも面白いが、7年債150億円・10年債100億円ともなると、A+(R&I)・AA-(JCR)といった格付けのみを鵜呑みにして投資するのは危険過ぎるだろう。10年債に付された0.9%という高い水準のクーポンが、不透明リスクに見合っているだろうか。それでも、5年限で計2,000億円の大型起債を成功させたのだから、驚嘆を禁じ得ない。

Zホールディングスの起債に比べると、京成電鉄と京浜急行電鉄が各々20年債を募集しているのは、違和感なく見ることが出来る。クーポンはいずれも0.73%に設定されている。なお、取得した格付けはA+格で同水準であるが、京成電鉄はR&Iからで、京浜急行電鉄はJCRからであり、発行額は京成電鉄の100億円に対し、京浜急行電鉄は150億円と多い。どちらの投資妙味が高いと考えられるか、好みも分かれるところだ。

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