国内起債市場を斬る 起債評価:7/6~7/10

7月第2週の金曜日は起債ラッシュになることは、ほぼ事前に予想はできていた。メディアも覚悟していたようで、いつもとは異なる多数の起債観測が事前に上がっていた。条件決定が集中することで苦労するのは発行体ではなく、引受証券と投資家なのである。もっとも、事前にマーケティングが終了していると、当日は値決めの儀式だけで済むだろう。以前のようにスプレッドプライシング方式でクーポンが決まるのであれば、参照国債の利回りを確認するだけの値決めだが、最近のマイナス利回り時代においては、想定されているクーポンの絶対水準で良いかどうかを確認する作業となる。日銀が金利水準をコントロールしている中では、それほど大きな金利変動がないことが期待できるため、絶対水準での値決めも決して難しくはないだろう。

10日の金曜日に条件決定された案件は、数えるだけでも膨大になる。まず、公的セクターからは、東日本高速道路が1年債100億円・5年債500億円・7年債200億円・10年債500億円の計1,300億円で、日本政策投資銀行が3年債300億円・5年債300億円・10年債350億円・50年債100億円の計1,050億円、住宅金融支援機構が5年債400億円・10年債200億円・20年債150億円の計750億円と、合計で3,100億円を募集している。

次に、鉄道関係では、阪急阪神ホールディングスが3年債200億円・5年債100億円・10年債200億円の計500億円、JR東日本が5年債200億円・10年債150億円・20年債100億円・30年債200億円・40年債200億円の計850億円、小田急電鉄が3年債600億円と合計で1,950億円を募集している。

電力・ガスでは、西部ガスは20年債100億円と小額であったが、東京電力パワーグリッドが5年債1,000億円・10年債1,200億円・15年債700億円の計2,900億円という圧巻の金額を募集している。募集年限の多さではJR東日本に負けるが、金額は3倍以上である。

ノンバンクでは、オリエントコーポレーションが2年7か月債100億円の他、5年債を機関投資家向けと個人投資家向けで各50億円を条件決定しているだけで、ソーシャルボンド認定を受けたことが目立つ。

もっとも多様であったのが、メーカーであろう。DIC(念のため旧社名:大日本インキ化学工業)の3年債200億円、セイコーエプソンの3年債100億円・5年債400億円・10年債200億円の計700億円、王子ホールディングスの5年債150億円・10年債150億円・20年債100億円の計400億円、小松製作所の3年債400億円・5年債100億円の計500億円、LIXILグループの3年債150億円・5年債250億円・10年債100億円の計500億円、タダノが5年債100億円、ダイドーグループホールディングスが5年債100億円・10年債100億円の計200億円、ENEOSホールディングスが同じく5年債100億円・10年債100億円の計200億円と、製造業の中でも様々な企業が社債を募集している。

更に、これらの分類に入らない企業としては、不動産の東京建物が5年債200億円・10年債200億円の計400億円をサステナビリティボンドとして募集し、情報・通信のコナミホールディングスが5年債・7年債・10年債を各200億円、建設業の日揮ホールディングスが3年債と5年債各100億円を募集している。

まさに壮観な起債ラッシュであったが、従来からの傾向である日銀オペ見合いの3年債及び5年債(オリエントコーポレーションの2年7か月債も含められる)が目立つとともに、利回り水準を求める投資家を意識した超長期の起債も、日本政策投資銀行の0.892%クーポン50年債やJR東日本の0.902%クーポン40年債に代表されるように目立っている。クーポンの絶対水準から言えば、東京電力パワーグリッドの1.08%クーポン10年債及び1.37%クーポン15年債が突出した水準である。

一部にコノタイミングでの起債を延期した発行体もあったように報じられているが、7月の起債ラッシュが今後もまだ続くのか注目しておきたい。

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