国内起債市場を斬る 起債評価:7/13~7/17

起債ラッシュは長続きしなかった。最大の要因は、日銀による金融緩和の意図が固く金利の先高感が感じられないことだろう。この7月に資金調達しなくても、上期中にでもまだ十分に機会があるだろうと思える。新型コロナウイルスの感染者数が再び増加し、感染第二波の到来が懸念されるものの、重症者数や死亡者数の増加率は鈍い。PCR検査数の増加や若年層の感染などが背景にあるものと考えられ、そのためGo Toキャンペーンによる旅行業への需要促進やイベント等の入場拡大が検討され、4月のような緊急事態宣言による自粛へと向かう状況にはない。こうした景気実感も、慌てて起債しようとする発行体の行動を引き留めているものと思われる。

実際に起債された顔触れを見わたすと、本数で上げれば、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく6本が、金額で上げると、みずほフィナンシャルグループの永久劣後債計2,070億円が、目立った両巨頭ということになろう。しかし、起債として注目すべきは、日産自動車とTDKによる起債だろう。金曜日に募集されたTDKの社債は、5年債300億円・7年債300億円・10年債400億円の計1,000億円で、極めてオーソドックスな年限設定である。かつてはカセットテープ等記録メディアのメーカーとして、一般消費者にも知られる会社であったが、現在はハードディスクドライブのヘッドやフェライト等電子部品のメーカーとして認識すべきであろう。そもそもがフェライト関連の製造を目的に起業されたメーカーであり、今回の起債も第5回債から第7回債と希少価値が高い。これまで事業内容を変化させ生き残って来た企業であり、投資対象として検討するのは面白い。なお、格付けはR&IのA+格を取得している。

一方、木曜日に募集された日産自動車は1.5年債290億円・3年債300億円・5年債110億円と計700億円であったが、クーポンを見ると、1.5年債で1%、3年債で1.4%、5年債で1.9%と随分と高いクーポンが付されている。背景としては、新型コロナ感染症の影響を受けた自動車に対する需要の低迷と、日産自動車そのものに対する財務体力の懸念がある。格付けだけを見るとR&IのA格を取得しており、TDKの1ノッチ下でしかない。しかし、同じ5年債を見比べても、TDKの0.18%クーポンに対し、日産自動車は1.9%という高い水準である。倍率を計算すると、10倍以上という結果になってしまう。日産自動車の先行きをどのように懸念するかは、ルノー等海外のステークホルダーによる影響があるため、なかなか読み難い。そのために、ここまで大きなクーポン格差が付されたものと解されるが、クーポンが1%あると、何となく嬉しくなってしまうのが、高金利時代を知っている人間の性なのだろう。

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