国内起債市場を斬る 起債評価:10/5~10/9

10月の第2週も、9日金曜日への案件集中が著しい。しかも、500億円を越える大規模の案件が複数あり、起債市場は活況を呈しているかのように見える。しかし、大型案件のうちでも、JR東日本の3年債1,000億円などは、日銀による社債買入れオペ見合いの募集であり、投資家の保有対象ではない。結局のところ、引受証券の実績作りと鞘取り目的の一部投資家(更には、日本銀行の金融政策への貢献)のための起債だから、本来的な投資に繋がらない起債市場の虚しさは強まるばかりである。このような環境の中でも、この週の起債で幾つかトピカルなものが目立ったので、概説しておこう。

まず、五洋建設の3年債及び5年債で後者のみがグリーンボンド認定を得ているなど、複数年限での債券募集のうち、一部のみがグリーンボンドやソーシャルボンドであるという案件が見られた。アサヒグループホールディングスは、普通の3年債と5年のグリーンボンド、60年の早期償還可能劣後債の組み合わせで募集した。住宅金融支援機構も5年債は通常の起債であるのに対し、10年債及び20年債はグリーンボンド認定を得ている。お金に色がない以上調達した資金に境目はなく、このような起債を行った発行体は、認定を得た当該債券の償還まで適正に調達資金を利用していることを、投資家に対して報告を続ける義務があると考えるべきなのではなかろうか。一方、中国銀行の劣後債やトヨタファイナンスの5年債は単独で認定を得ており、住友倉庫の3年債及び5年債は揃って認定を得ている。

SDGs関連では、ヒューリックの10年債がサステナビリティリンクボンドとして募集されている。当初のクーポンが0.44%に設定されており、2026年8月末に予め宣言した基準を達成できていない場合には、クーポンが0.54%にステップアップし、達成している場合には0.44%クーポンを償還まで維持するというものである。過去には、日本企業のユーロ円債で、格付けの低下や支配株主の変更といった要因でクーポンが上昇する債券を募集した例はあるが、国内公募でサステナビリティを基準としクーポンが変動する債券は初めてである。面白い取り組みであり、あくまでも基準未達でクーポンは上がり、下がることはないので、投資家の判断は比較的容易であろう。もっとも、今回の基準設定内容は不動産業を営む発行体に馴染むものではあるが、現状で10年の与信が適切な先であるか疑問がないとはしない。

次に、九州電力が最終償還60年で、早期償還可能のタイミングが5年債700億円、同じく7年債300億円、10年債1,000億円と計2,000億円の大型の劣後債を募集している。事業会社による劣後債の募集は既に珍しくなくなっているが、事業債の場合には無担保社債対比で劣後する社債であり、電力債の場合には元々募集されているのが一般担保付社債である。つまり、発行体の全資産が既に電力債の担保となっており、実質的に社債権者は先取特権を持つのと同様の効果を期待することが可能である。結果として、事業債は無担保の金融機関借入と同順位なのに対し、一般担保付電力債は無担保の借入等に優先する。その結果、電力会社の発行する劣後債は、回収可能性が電力債対比で著しく劣ることに留意しておく必要がある。

最後に、以前にも触れた東京大学債である。結局、40年債200億円が0.823%クーポンで、ソーシャルボンドの認定を得て募集された。同大学の位置付け等を考えると違和感はないし、AA+(R&I)及びAAA(JCR)という日本国債と同符号の格付評価も頷けるものである。しかも、国債対比では+18bpsの上乗せがあるのだから、実質的に財投機関債並みの存在と考えて良いだろう。高い信用力の源泉は、東京大学の債券だからということなのか、国立大学法人の債券だからということなのか。前者はプラス要素であるものの、本質は後者であろう。頭の体操をしてみると、京都大学や一橋大学でも、更には、帯広畜産大学でも同じように考えられるだろうか。なお、財投機関と同様に、国立大学法人も経営困難になった場合には破綻処理ではなく、別の法人と統合して救済されることが確実視できるだろう。経営破綻でなくとも2007年に大阪外国語大学は大阪大学に統合されているし、同様の国立大学法人の統合は単科大学を中心に珍しくない。統合による救済を所与とするならば、すべての国立大学法人の信用力を日本国債と同程度と見て良いのだろうか。なかなか難しい問題である。

コメントは受け付けていません。