国内起債市場を斬る 起債評価:5/31~6/4

カレンダーが6月に変わった途端、多くの社債等の募集が動きだした。本数・金額ともに4日の金曜日は相変わらず多いものの、月が変わった火曜から木曜にも万遍なく募集があった。この週には、10年長期国債の入札から地方債の条件決定といった公共債の動きも少なくなく、慌ただしい週となった。これから株主総会までの期間が、一つの社債等募集のタイミングである。

この週の社債等の募集を幾つかの特徴でまとめてみたい。まずは、SDGs債の募集である。投資家側のESG熱の高まりもあって、グリーンボンドやソーシャルボンド等のSDGs債募集が増えているのは近年の傾向だが、この週も幾つか見られる。SCSK(2011年11月住商情報システム株式会社を存続会社として株式会社CSKと合併し、SCSK株式会社に商号変更)の5年債はグリーンボンドであり、九州電力の募集した5年債と10年債のうち、10年債のみがグリーンボンドとなっている。都市再生機構の20年債・40年債・50年債という超長期債の3本立ては、いずれもソーシャルボンドの認定を受けている。最後に、ANAホールディングズの5年債はサステナボリティリンクボンドとなっている。かつてトレーニングセンターの二酸化炭素ガス排出を抑えるとしてグリーンボンドを募集した発行体であるが、欧州のESG教信者の中にはジェット燃料を燃やして大量の二酸化炭素排出を継続する空運業そのものに否定的な見方が強く、航空会社のグリーンボンドは強く疑問視されたものである。今回のサステナビリティリンクボンドは、SPTsを未達の場合に環境保護団体等へ発行体が寄付を行うという仕組みである。投資家に直接の経済的なメリットのない点が斬新であり、固定利付という本来の債券の特性を考えると、投資家に経済的なインセンティブを与えなくても良いとも考えられる。

次に、個人投資家向け社債の条件決定である。夏のボーナスシーズンを見据えた動きであるが、そもそもボーナスを貰うようなサラリーマン等が必ずしも個人投資家向け社債を積極的に購入するとは考え難く、単なる既存の個人投資家向け社債の償還見合いのタイミングと考えるべきかもしれない。10万円から購入可能な四国電力の3年債はオーソドックスな電力債であり、0.13%クーポンは銀行預金と比べればはるかに高い利回りである。一方、ソフトバンクグループの劣後債は100万円が最低の購入単位であり、5年経過以降に期限前償還が可能になるものの、最終償還は35年に設定されている。個人投資家保護の観点からは、発行体に償還オプションを与えることに疑念は残るが、これまでは期限前償還されて来ている。格付けはJCRのBBB格であり、持株会社の構造的劣後性を帯びていることもあって、投資家に十分なリスクの所在を説明出来ているかが大いに疑問視される。そもそも、通信事業者のソフトバンクと、持株会社のソフトバンクグループが混同されている懸念すらある。期限前償還されている間は問題が表面化しないが、今後の経営状態次第によっては、劣後債を販売した証券会社の説明責任を問われるような事態も発生しかねないだろう。

また、機関投資家向けの起債において、5年債が復権している可能性を指摘しておきたい。歴史的には、10年債と並ぶ主軸年限の一つでありながら、マイナス金利政策のお陰で影が薄くなっていた感はあったが、この1年くらいで5年債の募集がやや増えているように見える。この週だけでも、三菱マテリアルの3本立てのうち200億円、SCSKのグリーンボンド50億円、ジャックスの3本立てのうち200億円、九州電力のグリーンボンドでない方の500億円、共英製鋼の初物100億円、神戸製鋼所の100億円、日本航空の300億円と数多い。日銀の社債オペに対する姿勢が少し変化したことで、3年債の募集から5年債にシフトしている可能性も考えられ、今後の動向を注目しておきたい。

最後に、アイフルの1.5年債についても触れない訳には行かないだろう。同社は日本で唯一のハイイールド債発行体となっているが、同社による継続発行だけでなく、他の発行体が追随して市場の拡大が進むことを期待したい。必ずしもそれだけで社債市場の活性化が進んだとは言えないと思われるが、一つの重要な指標と見て間違いないからである。

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