国内起債市場を斬る 起債評価:6/7~6/11

6月に入って起債市場がやや盛り上がりを取り戻したかに見える。これまでのパターンですと金曜日に募集案件の集中する傾向が強いが、この週は週初めの月曜日を除くと火曜日から金曜日に万遍なく案件が分散している。また、金曜日の案件数が木曜日よりも少ないために、慌ただしい展開とは見えない。いつの間にか、金曜日に案件が集中する状況に慣れきってしまったようだ。今月末に企業の株主総会が多く集中することを考えると、翌週以降の起債は3月期決算企業以外の民間企業や公的セクターが中心となることだろう。

この週の起債の特徴は、概ね前週までと異なるものではなかった。ノンバンク、電力、個人向け、劣後債、SDGs債、財投機関債等といったラベルでほとんどの案件を語り尽くせる。これらから外れているものと言えば、光通信の5年債・10年債・20年債の3本立て計500億円とスターゼンの第1回債50億円の2件に留まる。前者は、過去の発行体による忌まわしい買入消却さえなければと思う一方、この事業内容での20年債という年限について疑問視しておくべきだろう。20年という超長期では、事業内容と格付の安定性は両立しない可能性が高く、中短期債ならともかく超長期債を安心して購入できる発行体ではない。逆に、スターゼンの初回債は5年という年限の設定も適切である。BBB+(JCR)という評価でもあり、食肉専門の商社という事業内容からも、ヘッドラインリスクさえなければ安定的な企業と期待できる。同じ年限の5年債でも、R&IのA-格及びJCRのA格を取得した光通信の0.3%クーポンより高い0.35%クーポンとなっている。光通信も5年債なら、事業展開を想定できる範囲であり、投資対象に加えても悪くない年限なのであるが。

劣後債を募集したのは、野村ホールディングスとENEOSホールディングスの2社である。前者は永久劣後債で5年経過後に期限前償還が可能になるもので、後者は60年劣後債を期限前償還が可能になるタイミングで5年・10年・15年の3本に分けたものである。野村ホールディングス債は2,250億円の1本で、ENEOSホールディングス債は1,000億円ずつが3本といずれも巨額の募集であった。こういった期限前償還が可能なコーラブル債については、期限前償還の確実性を適切に評価しないと、投資元本回収のスケジュール見通しを誤る可能性がある。金融庁監督下の野村ホールディングスについては、期限前償還される可能性は極めて高く、当初5年のクーポン水準1.3%は投資妙味が高い。それでも、証券会社を主力とするグループの持株会社であるから、絶対的な安心感は持ち得ない。海外投資での損失発生といったニュースが、いつ入って来るか予測できるものではない。

一方、ENEOSホールディングスに関しては、期限前償還の確実性が、かなり劣る。当初5年の0.7%クーポンや当初10年の0.97%クーポンは、野村ホールディングス債の当初5年より低く、当初15年の1.31%クーポンでようやく野村ホールディングス債の当初5年と同程度である。石油関連という事業リスクの高さを考えると、明らかに割高な起債と見るべきだろう。ヘッドラインリスクという意味では、証券会社よりも高いかもしれず、中東地域での紛争や代替エネルギー関連の話題にも振り回されかねない。更に言えば、化石燃料が事業の大半を占める以上、部分的に再生可能エネルギー開発の努力等ESG経営に向けた努力を行っているが、ESG投資のEの観点からはアウトというレッテルを貼られる企業である。ダイベストメントと呼ばれるESG投資の手法では、除外対象となる可能性が高い。単純に利回りの高さを求めて兵器製造企業や賭博関連企業にも投資するのが適切な投資行為なのかという、投資家の規範意識が問われるものである。

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