国内起債市場を斬る グリーンボンド特別号:東京電力リニューアブルパワーの起債へ

旧盆休みが明けたばかりの起債市場では、引続き起債観測が幾つか上がって来るものの、具体的な条件決定から募集に至った案件は財投機関債のみで、20日に募集された鉄道建設・運輸施設整備支援機構の5年債および20年債各100億円と、日本学生支援機構の2年債300億円のみであった。前者の鉄道建設・運輸施設整備支援機構はいずれもサステナビリティボンドの認証を得ており、後者の日本学生支援機構はソーシャルボンドとしての募集である。どちらの発行体も以前の起債から、これらSDGs債としての認定を取得して債券を募集しており、各機構の業務内容を考えても、認定を受けることに違和感がない。結果として、クーポンは低水準であり、日本学生支援機構の2年債はオーバーパー発行で利回りは0%である。それでも投資家の超過需要が集まるのであるから、財投機関の公益性とSDGs債という認定の効果は侮れない。特に、3年の高格付け社債での0%利回りを見慣れると、2年の財投機関債の0%利回りは十分な割安に見えてしまう。また、同年限の国債と見比べても割安に見える。

民間企業による社債募集に向けた動きが様々に見られる中で、一つの新しい発行体の動きを取上げたい。発行体の名称は、東京電力リニューアブルパワーである。先週の当MDWで取上げた東京電力グループ3社の中の一つであり、8月5日にR&Iの格付けがBBB+格からA-格に評価を引き上げられたばかりの発行体である。18日に公表された起債の見込みは3年債100億円であり、東京電力グループ初のグリーンボンド認定を受けての発行が予定されている。グリーンボンドとしての認定は、ICMA(International Capital Market Association:国際資本市場協会)のグリーンボンド原則2021と環境省のグリーンボンドガイドライン2020年版に基づいており、DNV(Det Norske Veritas group)ビジネス・アシュアランス・ジャパンによって適格性を確認されたことが発表されている。DNVビジネス・アシュアランス・ジャパンは神戸に日本地区本部を置く”全世界80認定のもと、88,000件以上のマネジメントシステム認証および製品認証を有する第三者機関”である。

東京電力リニューアブルパワーは、東京電力グループの中で再生可能エネルギーによる発電事業を展開する子会社であり、カバーしているのは、水力発電163か所約987万kw、風力発電2か所約2万kw、太陽光発電3か所約3万kwである。地熱発電を持ってないか調べると、八丈島に建設した地熱発電所を閉鎖したため、現在は保有していない。日本は火山国であり地熱エネルギーは豊富に存在するのだが、国立公園等観光資源化されているものが多く、地熱発電所を建設することは容易でない。いわゆる東京電力管内(現在は電力小売りの自由化によって、以前のような管轄エリアの概念は適合しない)では、那須や伊豆に民間や地方自治体の建設した小規模な発電施設が存在するのみである。他の地域であれば、東北電力と九州電力が複数の地熱発電施設を有しており、北海道電力も森地熱発電所を有しており、再生可能エネルギー利用拡大の観点からは、更なる活用が期待される。

この発行体は、古典的な水力発電と、風力発電および太陽光発電と再生可能エネルギー活用の発電事業に特化し、原子力発電を含まないのであるから、グリーンボンドの発行体としての適格性は容易に想像できるところである。ノンバンク等のファイナンスによる迂回的なグリーンボンドではなく、再生可能エネルギーによる発電事業という直接的なグリーンボンドであり、投資家も購入判断が容易であると思われる。また、東京電力パワーグリッドの既存債券を参考にできることから、価格の適正評価も行い易いことだろう。前回に取り上げた東京電力リニューアブルパワーを含む東京電力グループ3社の格上げは、この東京電力リニューアブルパワーによるグリーンボンドの発行を視野に入れていたと考えるのは穿った見方だろうか。あくまでも結果論として考えておこう。

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