国内起債市場を斬る 起債評価:8/30~9/3

起債市場の動きは活発である。中でも、募集金額で目をひいたのは、野村ホールディングスのTLAC対応債1,200億円と、三菱商事の劣後債1,300億円である。前者は劣後債ではないが、総損失吸収力規制に対応したものであり、国際的な金融システムに影響を及ぼすような規模の金融機関持株会社が危機に瀕した際に、納税者に負担させることなく、つまり、公的資金の注入を抑制して処理するために募集する債券である。つまり、危機時には、社債の保有者が損失を負担することになるものである。結果として、社債権者からすれば、劣後債と類似した損失負担を強いられる可能性のある債券である。このような損失負担リスクを負うため、プレミアムが乗った利回りを得ることができる。

今回火曜日に募集された野村ホールディンスのTLAC対応5年債は、0.28%クーポンである。格付けは、R&IのA格及びJCRのAA-格であった。一方、翌日に募集されたR&IでA+格及びJCRでAA格と格付会社によって水準は異なるものの1ノッチ上の評価を得る中部電力の10年債が、同じ0.28%クーポンになっている。電力会社の募集する債券にも、原発事故等の共同負担を強いられる可能性という業界独自のリスクが存在し、一方で、一般担保付と他の多くの債権に回収を優先できる特性がある中で、中部電力の10年債と同じクーポンとなった5年債に投資妙味を感じる投資家は少なくないだろう。しかし、損失負担を求められる可能性を無視するのは適切ではない。

この週は、複数の劣後債の募集が見られる。前述の三菱商事の劣後債は、5年経過時点に期限前償還が可能な仕組みで、当初クーポンは0.51%である。格付けはR&IのA格であり、野村ホールディングスのTLAC5年債と同じ符号であるのが面白い。一方で、問題視されるべきなのが、イオンの劣後債だろう。劣後債の格付けは、R&IのBBB格を取得している。今回の募集は既発劣後債の期限前償還対応と短期借入金の返済目的とのことであり、第8回債400億円は30年債で期限前償還は10年経過以降、第9回債300億円は35年債で期限前償還は15年経過以降である。つまり、期限前償還が必ず行われると考えても、10年債と15年債なのである。イオンの長期債務に付されている格付けは、R&IのA格とS&PのBBB格である。

果たして、A格の小売業に10年や15年といった与信を積極的に行えるだろうか。小売業は不動産業と並んで、過去に公募社債がデフォルトした代表的な業種であり、それは事業特性から見ても、決して違和感がない。一般的なメーカーに比べると、小売業の収益安定性は高くないように思えるし、積極的な投資による出店や買収等の失敗によって債務超過に陥ったり、過大な有利子負債の負担に苦しんだり、といった構造が目につき易い。かつて小売流通大手だったとされる企業がどれだけ現在のイオングループに統合されているかを考えても、果たしてイオンの優位性が10年、15年といった長い期間保てるだろうか。そこまでのリスクを考え、状況によっては期限前償還が実施されないリスクを考えると、決して投資妙味の高い債券には見えないだろう。

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