国内起債市場を斬る 起債評価:9/6~9/10

上期末の「起債ラッシュ」の様相を呈して来た。金額・本数とも顕著に大きくなっている。ただし、本数は例年よりも抑制気味か。金利先高観は少なくとも日本国内には見られない。また、発行体も、メーカー、電力、商社、公的機関、ノンバンク、通信、小売と様々である。年限という意味では、成田国際空港の1年債というレアな年限が募集されている。その一方では、地方公共団体金融機構が20年債を募集したものの、それ以外に超長期債の募集が見られないというのは珍しいかもしれない。

こういった起債が多く見られる局面では、初物ではないがレアなイシュアーが債券を募集することがある。回号の若い募集例を見ると、イチネンホールディングスの第6回3年債及び第7回5年債や、センコーグループホールディングスの第10回10年債、青山商事の第2回3年債及び第3回5年債といったものが見られる。これらの銘柄は格付けを見ると、イチネンホールディングスがJCRのBBB+格、センコーグループホールディングスがJCRのA-格、青山商事がR&IのA-格と決して高水準ではない。珍しい発行体のやや格付けの低い社債が、起債ラッシュの中で出て来たというところだろう。

この週でもっとも金額を稼いだのは、ソフトバンクグループの劣後債である。いずれも7年債で、個人投資家向けが4,500億円で機関投資家向けが500億円の計5,000億円という大型案件であった。劣後債ということもあって、格付けはJCRのBBB+格である。そのため、クーポンは2.4%と普通の社債では全く見ることの出来ないような高水準になっている。発行体の信用力の安定性に疑念を持つ機関投資家よりも、「ソフトバンク」という馴染みの社名に期待する個人投資家向けに巨額の社債を発行するというのは、同社の過去からの戦略のように思われる。しかし、実態としては、ソフトバンクグープは持株会社であって、事業の本質は投資会社である。CM等で馴染みのある通信事業は子会社が営んでおり、別途、社債の発行も行っている。国民生活のインフラとなっている通信事業は、認可事業でもあり、万一の場合でも単純な破綻処理となることはないと予想されるが、投資会社については、また、異なる観点からの評価が絶対に必要である。

投資会社の発行した劣後債の信用力に信頼を置けるかどうかについては、過去の実績も当てにならないし、政府等による支援の有無も予測しづらい。まさに投資よりもギャンブルに近い。海外展開も含め、M&Aの成否や投資先の状況等をすべて予測することは、不可能に近い。また、ソフトバンクグループがメインバンクにとって、「Too Big To Fail」になっていると評価する意見もあるが、メインバンクのみずほ銀行は度重なるシステムトラブルによって監督当局からの信頼を失墜しており、週刊誌等では分割して他行と統合すべきといった極論も見られている。メインバンクの支えが期待し難い状況で、巨額の有利子負債を抱え、投資先の含み益に依存した財務構造を有する投資会社の信用力は、はたして7年間安定を維持することが可能だろうか。7年は短いようで、十分に長い年限である。

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