国内起債市場を斬る 起債評価:10/11~10/15

例年よりも起債市場の動き出しが速いかもしれないと見たのは、誤りだった。前の週は電力債だけでなく、劣後債や大型起債が相次ぎ募集金額は大きく膨らんだが、この週は劣後債の募集がなく、大型案件も乏しい。総額で500億円を越えたディールは、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの3本立て計800億円(5年債400億円・7年債100億円・10年債300億円)くらいのもので、他は小粒が多くローンチされ、しかも本数も多くなかった。

はっきりした起債の特徴を挙げるとすれば、グリーンボンド等SDGs債の募集が相次いだことだろう。初物である栄研化学の第1回債30億円はサステナビリティボンドの認証を得ており、三井住友トラストパナソニックファイナンスの2本立て起債のうち、5年債100億円のみはグリーンボンドとなっている。更に、味の素の7年債100億円はサステナビリティボンドであった。地方債でも、北九州市は初めてサステナビリティボンド100億円を募集しており、東京都の今回のグリーンボンドは5年債と30年債の各150億円であった。

こうしたSDGs債の募集が目立つのは、投資家の購入意欲を刺激する意味もあり、好ましいものではあるが、果たしてSDGs債としての認証に正当性や確実性があるのか理解し難い起債が頻発すると市場参加者からの信認を失いかねないことを肝に銘じるべきである。具体的に見ると、栄研化学の5年債サステナビリティボンドは、野木事業所(栃木県)における新研究棟建設資金に充当するとしている。資金充当に関するレポーティングを行うことを明示しているが、格付けを付与した日本格付研究所の別部門によるセカンドオピニオンに正当な適格性があるのだろうか。極論すると、社債そのものに社債管理者を設置してモニタリングさせるべきなのではなかろうか。

三井住友トラストパナソニックファイナンスの5年債グリーンボンドについては、「全額を当社が策定したグリーンファイナンス・フレームワークに定める、①エネルギー効率、②再生可能エネルギー、③汚染の防止及び管理並びに④クリーン輸送における適格クライテリアを満たす融資・出資等に係るリファイナンスに充当する」としている。資金の充当状況については、外部監査法人の監査対象にするとしているが、何処まで分別管理が徹底できるだろうか、また、果たして監査法人が十分に把握しきれるものだろうか。

味の素の7年債サステナビリティボンドの場合は、差引手取額9,953百万円のうち、4,314百万円をソーシャルプロジェクトであるニュアルトラ社の株式取得目的で発行した短期社債の償還資金の一部に充当する予定とし、また、715百万円をグリーンプロジェクトである、つばめBHB株式会社への出資により減少した手元資金に充当する予定とし、残額を2023年3月末までに、同様にグリーンプロジェクトであるタイ味の素社への投融資資金として充当する予定としている。しかし、715百万円はグリーン支出によって減少した手元資金への充当であって、必ずしも直接的なグリーンプロジェクトへの支出ではない。また、最終的な残額のタイ味の素社への投融資も、2023年3月末までと最大で1年半の猶予期間があり、その間の運転資金に利用される可能性すら考えられる。「調達資金は概ね2年程度を目途に充当する予定であり、調達資金が充当されるまでの間は、現金又は現金同等物にて管理する」としているが、充当までの現金同等物が分別管理されていることを外部から確認することは必ずしも容易ではないのである。

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