国内起債市場を斬る 起債評価:11/1~11/5

11月に入り、引続き9月末の決算発表シーズンが続くため、民間企業が社債を募集する動きは見られなかった。確認されたのは、地方公共団体金融機構による30年債100億円の募集である。今回は少し同機構の債券募集について振り返ってみよう。同機構は投資家向けに債券募集方針の説明会を行うとともに、四半期ごとに起債方針を明確にしているので、わかり易い発行体の一つである。ただし、後述のように、必ずしもすべてをガチガチに決めているものでもない。

地方公共団体金融機構は公営企業金融公庫(昭和32年6 月設立)の業務を一部引き継いでいるが、国の設立した特殊金融機関ではなく、すべての普通地方公共団体が出資して設立(平成21年6月改組)された特殊法人である。公営企業金融公庫の時代は地方公共団体の公営企業会計に対する貸付目的とした資金調達を行っていたが、改組された後に経済対策の一環として一般会計をも対象にすることとなって、現在の地方公共団体金融機構になっている。そのため、債券形態の地方債募集を行っていないものを含めたすべての地方公共団体にとっての共同資金調達機関であり、信用力はすべての地方公共団体の最上のレベルと考えて良い。しかも、地方公共団体金融機構の発行する債券に対して政府保証が付される政府保証債も発行されている(公営企業金融公庫から承継した債権に関する調達である)。そのため、同機構の信用力は、国債と同程度の高いものとみなしてよいと考えられる。実際に、取得している格付けはR&IのAA+格、ムーディーズのA1格、S&PのA+格と、いずれも国債と同じ符号になっている。

今年度下半期の債券募集計画は、政府保証債以外の債券で、10年債が毎月、20年債が四半期に2回、5年債が年2回、30年債が年2回と公表されている。各回に募集される金額は市場環境等で変動することもあるが、予定額としては10年債が200億円、20年債が100~150億円、5年債及び30年債が100億円とされている。したがって、これらの年限の債券は事前に購入予定が立てやすい。国債対比のスプレッドは信用力と同様に最上位の地方債と同程度であり、投資判断に迷うことは少ないはずである。

これらの定例の募集以外に、スポット債として異なる年限もしくはタイミングでの募集が行われる可能性もある(今年度は予定されていない)他、FLIP(Flexible Issuance Program)に基づく債券募集も行っている。FLIPに基づく債券募集は、基本的に定例募集する年限以外で引受証券会社が投資家を見つけて来て随時(実際には四半期の初めの月が多い)に債券募集を行うものである。最低発行額は30億円とされているようであるが、200億円を募集した例もある。なお、公募債以外に地方公務員共済組合連合会等の地方公務員関連の公的共済組合向けに、年金運用に充てるための縁故債を発行しており、被用者年金一元化の後は、10年債及び20年債を募集している。そのため、定例募集を行っていることもあり、FLIPで10年債と20年債が募集されることはまずないと考えられる。

このように地方公共団体金融機構は、中期から超長期にわたる多様な年限の債券を募集する数少ない発行体であり、国債の流動性供給入札を除けば、もっとも年限の多様性に富む発行体であると言って良いだろう。国債の流動性供給入札は既発債を時価で追加発行するものであり、クーポンが予め定まっているため単価で利回りを調整せざるを得ない。しかし、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券の場合はパー発行が可能なために、より投資家にとって利便性の高い存在である。もっともFLIPで募集される債券を購入するためには、FLIPに携わることを認められている証券会社との関係が重要かもしれない。

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