国内起債市場を斬る 新春特別号:2022年度の起債市場-その2

年末に続いて、2022年度の起債市場の状況について考えてみる。まず、国債について思い返してみると、新型コロナ感染症対策で割引短期国債を中心に引続き大きな金額の発行が予定されている。国債の借換えルールを考慮すると、当面割引国債の巨額発行は継続されることになるが、物価上昇の兆しがあった場合に、日銀による短期金利のコントロールがなければ、まず短期金利が上昇してしまうことから、一気に国債の利払負担が増加することになってしまう。そういう意味でも、日銀によるマイナスからゼロ金利政策の見直しが早期に行われるとは考え難い。中期的に、国債の市中消化額は高止まりしよう。

一方、公募地方債の発行予定額は、全国型のみで6.6兆円と2021年度対比約1兆円の減少が見込まれている。住民参加型市場公募債(いわゆるミニ公募地方債)については、中期年限の金利が日銀のイールドカーブコントロールによってほぼ機能しておらず、個人の投資ニーズにほとんど合致しないため、2021年度発行予定額300億円から150億円と半減する計画になっている。とは言っても大勢には影響を及ぼす額ではない。年限別に見ると、市場環境の変化に柔軟に対応するため、年限等を定めないフレックス枠として設定されている金額が増えているものの、他の年限はいずれも減少する計画になっている。実質的に利回りがほとんど付されない10年以内の国債や政府保証債と比べて、わずかでも利回りの乗っている財投機関債や地方債に対する投資家のニーズは根強い。特に、信用リスクをほとんど負わないという評価が可能なため、元本の毀損をほぼ懸念しないで済むことが財団法人等にとって国債に代わる投資対象として人気になっている模様である。

地方債の発行額が減少する背景には、借換債がわずかながらも減少したことに加えて、臨時財政対策債の発行が大きく減少したことによって、民間資金への依存度が大きく減少したものと見られる。また、企業等の収入増によって地方税収が増加する見通しや国からの地方交付税等交付金の増加も寄与しているようである。借換債を含まないベースでの資金面の地方債計画においては銀行等引受債による消化額も1兆円以上の減少となっており、2022年度は地方債の供給減少が一つの注目の的になるのかもしれない。

民間企業による社債の発行額については、影響する幾つかの要素がある。まず、金利上昇の懸念による駆け込み調達ニーズがあるか、である。更には、根本として、社債での資金調達ニーズがあるかどうかも大きな要素があり、中でも大型M&A等の資金ニーズが生じるかどうかか大きい。また、公共債と同様に、既存社債等の借換債が募集されるかも大きい。日本の金融慣行においては、銀行等金融機関からの借入れと社債発行は注射器に例えるとインターチェンジャブルな資金調達手段であり、借入金を返済するための社債発行という選択肢がない訳でもない。加えて、技術的な要素としては、日銀による社債買入オペの運営も起債額に影響する可能性がある。3年以上5年のゾーンについては、既に買入れ額は減少傾向にあるが、新型コロナ対策以前から取組まれている3年以内の社債購入については、惰性的に継続して取組まれるものと思われる。官僚的な組織では、従来からの取組みを停止するには、正当性の担保や当初発案者を傷付けない説明が求められる等相応のエネルギーが必要だからである。

現状では、今年度の民間企業による公募普通社債発行額は15兆円を下回る規模と想定されており、大きなM&Aニーズがないとすれば、2022年度も同程度となる可能性が高いと思われる。日銀の買入れオペの運営見直しが行われると、高格付け債では利回り0%で募集できている3年債の募集が減額される可能性もあり、更に下回る可能性も否定できない。地方債と同様に、民間企業の社債についても、引続き、市場での品薄感は払拭できないものと考えられる。その結果、スプレッドはタイトな水準が維持されるため、投資妙味の乏しい状況は今年も続くのであろう。このブログを18年間つづけている筆者としては、希望する景色からは程遠いい。(本稿終わり)

コメントは受け付けていません。