国内起債市場を斬る 起債評価:1/17~1/21

四半期頭の起債市場で起債の本数を稼ぐのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債がもっとも顕著である。この週も、第647回債から第659回債と様々な年限で計13本を募集している。金額も第648回の9年債が200億円と大きいものの、それ以外の多くが30億円という最小金額で設定されているため、総額では計665億円にしかならない。一方で、ソフトバンクの個人向け劣後債は5,500億円の募集条件を決定しているのだから、大型起債によるインパクトをまざまざと感じさせられる。

個人投資家向けに劣後債5,500億円の募集を開始したソフトバンクグループと、機関投資家向けに7年債と10年債各150億円を募集したソフトバンクは、持株会社と事業子会社との関係にあるが、投資判断という意味では、両極端の位置づけにあるとしても過言ではない。持株会社は、様々な事業子会社や投資ファンドを傘下に抱えており、安定した信用力の推移を期待することは容易でない。子会社やファンドの買収や売却によって信用力自体が大きく変動する可能性は、7年という投資期間の長さを考えると否定できるものではない。決してデフォルトに瀕すると予想されるものではないが、アップサイドもダウンサイドも十分に有り得ると考えるべきである。そういった信用力の不安定さを抱えている劣後債を個人投資家に販売することをどのように考えるべきだろうか。確かにクーポンは2.48%と米ドル建ての米国10年国債よりも高い水準にある。引受証券会社に支払う手数料も発行額100円あたり1円50銭と高額であって、証券会社にとっては大きな収益源である。発行体である持株会社がデフォルトしなければ、投資家にとっても引受証券会社にとっても美味しいいディールである。高額な利子と手数料を払って利益を損なわれたのは、株主なのであるが。

一方、通信事業子会社であるソフトバンクは、事業基盤の安定性を期待できることから、相対的に高い信用度を確保している。持株会社の劣後債が取得した格付けはJCRのBBB+格であるが、ソフトバンクの社債が取得した格付けはR&IのA+格及びJCRのAA-格と十分に高い水準である。持株会社の信用力変動の影響を全く受けないものではないが、総務省の監督対象となっている通信事業については、国民生活の安定を考えると万が一にも破綻処理を行われる可能性は低い。何らかの形で新規もしくは既存の受皿会社に事業譲渡を行わせることが十分に期待できるし、その際に債務も移管されることが期待できる。何しろ携帯電話やPHS等の移動通信全体を見た時に、ソフトバンクの契約数シェアは2割を超えており、同社のMVNO回線を利用したキャリアを加えると約4分の1を占める存在である。スマホなしでは生活に支障が生じかねない現代において、ソフトバンクを破綻処理することを現実的なものとは考えられない。しかも、ソフトバンクの募集した今回の社債はサステナビリティボンドとしての認証も得ており、機関投資家からの投資を誘引する材料ともなっている。

このように両者を比較すると、リスクを保守的に認識する機関投資家向けをサステナビリティボンドとし、リスクより利回りを重視するとともに発行体の知名度を意識しがちな個人投資家には持株会社の劣後債とすることが、極めて理に適っているいると考えられる。劣後債のリスクが個人投資家に的確に認識されていると思えないため、7年間に何もないことを祈るしかないが、機関投資家と異なり時価評価を求められない個人投資家から見れば、元利払いさえ予定通りに行われれば、M&Aや格下げの信用力に関するイベントが投資スタンスに大きく影響することはないだろう。

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