国内起債市場を斬る 起債評価:2/21~2/25

20年後に令和時代の歴史を見た時に、ロシアによるウクライナ侵攻が世界史の一つのターニングポイントになるのかもしれない。かつての米ソ二大超大国による冷戦構造は、ソビエト連邦の崩壊で消失したが、依然としてロシアは核兵器保有国であり国連安保理の常任理事国である。そもそも国際連合というのは、第二次世界大戦の敗戦国である日本が区別するために作り出した訳語であり、同じUnited Nationsは戦時中だと連合国と訳される存在である。様々な種類の制裁によってロシアの経済的な立場が変化するのか、長期間にわたるプーチン政権が崩壊するのか。ロシア産の原油等エネルギー資源の対外輸出が長期に停止された場合、能天気なまでに気候変動を怖れ、温室効果ガスの排出抑制を進めて来た先進国経済が、変質する可能性も否定できない。北半球が春に向かう今は良い。しかし、十分なエネルギーを確保せずに、次の冬を迎えられるのだろうか。今から来冬の心配をせざるを得ないのは、日本だけではないようだ。

経済の変質は金利水準や景気そのものにも大きな影響があることだろう。クレジット市場への影響に対象を絞っても、いわゆるSDGs債を殊更に評価してよいのかという疑念が生じるし、エネルギー価格の高騰によって、運輸だけでなく、電力やガス、自動車など幅広い産業が大きな影響を受けることも考えられる。決してウクライナ問題は、起債市場にとって対岸の火事ではない。

この週の起債の中でも、トランジションボンドを募集した日本航空、同じくトランジションボンドを募集した東京ガス、普通社債を募集した東邦ガスは、ウクライナ情勢とその展開による影響を大きく受ける発行体である。既に北京オリンピック期間中からロシア軍による侵攻懸念が報道され、16日にも可能性がというXデイ報道があった中では、24日の実際の侵攻開始を待つまでもなく、クレジットイベントへの懸念を意識すべきである。実際には、軍事力を行使した侵攻には踏み切らないのではといった期待的観測もあったが、投資家が意識すべきなのは可能性である。18日の金曜日に電力会社がこぞって起債したのも、発行体側から見れば状況変化の前にという当然のアクションであり、ウクライナ情勢の変化を考慮せず、安易な購入判断を行った投資家こそが責められるべきだろう。

ロシアに対する経済制裁が本格的に長期化するならば、エネルギー価格の上昇は必至であり、その影響を受けて様々な物価の上昇は確実視される。それだけでなく、円安となる可能性が高まることもあって、日銀がイールドカーブコントロールの対象外とする超長期金利の上昇が強く懸念される(景気の頭が大きく抑えられることで、金利が低下するというパスも考えられるが、それは少し長めの時間軸であろう)。業種によっては、超長期の資金調達意図があるならば急ぐべきであるし、特に、起債市場の実動期間が3月中旬までの2週間ほどしか残っていない中では、ウクライナ情勢の変化を待つべきではない。年度末に向けて、トランジションボンドやグリーンボンドといったSDGs債の起債観測が数多く見られているが、逆の立場にある投資家は慎重に取り組んだ方が良いだろう。年度末を越えた時の起債環境がどのように変化しているか、およそ40日後の世界情勢を予測することは容易ではない。少なくとも、現在が平時であるという認識、他人事という意識は、改めておいた方が良いのである。

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