国内起債市場を斬る 起債評価:2/28~3/4

世界的な供給制約と需要回復から生じた物価上昇と、それを受けた各国中央銀行による金融緩和政策の見直しで、先進各国の金利は年が明けてから上昇傾向となった。おそらく何もなければ、このままFRBが実施するであろう3月の利上げを経て、多くの国々での金利上昇が追認される形になっていたはずである。ところが、ロシアによるウクライナ戦争の勃発によって、世界経済の行方は暗転している。少なくとも、欧米の主導するロシア経済封じ込めによって、それでなくとも新型コロナ感染症によって貿易や人流に障害の出ていた状況は、当面、すぐに回復するという望みを絶たれた。例を挙げるならば、日本から欧州へと飛行機で移動する際に、基本的にロシア上空を通過することが敬遠される(厳密には日本の航空機が締め出されているわけではないが、情勢判断として避ける)ため、北極経由でも南回りでも、飛行の所要時間が増えコストが増大する。

物流以外にも、主要産油国の一角を占めるロシアの原油が事実上禁輸となり、ロシア及びウクライナはともに小麦の生産ランキングでトップ10に入る国々である。両国の小麦が世界的な物流から落ち自由に動かなくなることは、食料・飼料等様々な面での影響は大きい。どのように考えても、経済回復によるな明るい物価上昇から金利上昇へという当初のシナリオが崩壊し、悪い意味での物価上昇から経済成長の抑制といったスタグフレーションの可能性が懸念されるような世界情勢である。確かに金利は上がるかもしれない。しかし、景気回復を伴わない金利上昇は、信用力の低い企業や新興国の破綻を伴いながらの厳しい道である。既に、SWIFTからの排除によって、ロシア国債のデフォルトが必至と見られており、ロシア企業との関係の深いヨーロッパを中心に、金融機関や取引企業の信用懸念が高まる可能性は否定できない。

日本の起債市場は3月中旬までが年度内の最終募集タイミングであるが、ウクライナ戦争の勃発によって、市場では完全に様子見が定着している。日経平均株価が一日に数百円単位で上下動しており、金利も高めの水準で推移したままにある。日本においても、ロシアに対するエクスポージャーを抱える企業は、総合商社をはじめ決して少なくない。戦況が膠着するならば、このまま年度末を迎えるような展開も考えておかなければならない。その中では、発行体は起債タイミングの先送りを検討し、投資家は債券購入を急がないという状況になっていしまうのは必然であろう。

3月に入って募集された債券は、引続き、SDGs債が目立つ。JR東海の35年債、鹿島建設の5年債、東京電力リニューアブルパワーの5年債といったものが募集されており、鹿島建設のみサステナビリティボンドで、残りの二つはグリーンボンドである。また、関西電力が60年物劣後債を早期償還タイミングを変え、計3本2,200億円ほど募集している。一般担保付きの電力債を発行している電力会社で、劣後債の弁済に回るような残余財産があるとは到底思えないが、逆に言えば、電力会社を法的に破綻処理して、産業のみならず家計の機能に影響を与えることも難しい。電力会社の劣後債に対する暗黙の政府保証はほぼ存在しないと見られるが、福島第一原発の事故処理を見ても、単純な倒産を選択し難いと考えられる。

今回の劣後債も早期償還されるならば、最長でも10年以内の期間において相対的に高い利回りを得られるのであるが、果たして電力会社の将来と環境の変化をどう見るか。電気自動車や水素エネルギーはクリーンだと持てはやされているが、エネルギー源となる電気や水素の生成に際しての副産物や温室効果ガスの排出を考慮せずに、単に電気でモーターを回している状況や、水素の燃焼によって水しか発生しないといった化学反応だけを見てはならない。日本の電気の半分以上は、今でも火力発電で賄われているし、水素の生成は水の電気分解によるなら火力発電の産物でしかないし、炭化水素の分解によって生成されるなら、炭酸ガス等の副産物が生じているのである。目の前の現象だけでなく、原材料にまで想いを至らせるべきであろう。

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